はね【ハネ】
松本長『松韻秘話』(1936)
- 111「キライ節」といふのは「当麻」のクセの終り辺の「綺羅衣の御袖も」の「羅」のハリマワシ節をいふのです。昭和版改訂の砌りマワシ節のハリ節は除いて補助記号で補ふことになつたのに、この「羅」のハリ節のみは除くことが出来なかつたのです。「ら」のマワシはハリをふくめてやゝたつぷりめに謡ひ、マワシの後半のハネを短かくハネるやうに張りをふくめて「アイ」とツメて消しを謡ひ「オ」のではじめて普通に戻るのです。
- 113ステとイロとについては魯洋君なんかゞよく調べてゐるが、理屈なしに一口で言へば、イロは淋しさ、やさしさがあり下へステルもの、ステは強みであつて、ハネルのです。謡ひ方には或はハルのがあり、おさへるのがあつて、イロといひステといひ、曲と処とで多少の謡ひ方はありますが、左にあげるものは、特に注意すべき変つたものであります。
- 4オ◯ハネ節 廻しの前に勢ひをつける為めにハネ上げる節。東北の「あら有難の御経やな」のや。江口の「よしや芳野」の野の類。
- 48節で云ひますならば強吟のフリ節の前の節は音尾をハネておくとか、振り節、張り節が続いて来れば、その前のゴマ節をハネ、振りの尻もハネて謡ふとか、又はイロ、ステなどの処は何時でも口切りして何う張つて、どう抑へて謡ふとか、さういふ事を一番毎にスツカリ覚えこんでしまふ事が肝要で御座います。
- 57また杜若の「花橘の」の「な」のやうに、二つカケ節の重なる時は初めの分はフつて上へ浮き、二つ目は下にならねばなりません。即ち「花たちばーンなーアア」とフつて浮き、アアーのーオ」下から当つて出るのです。尤もこれは弱吟の場合であつて、強吟の時は前のはハネて、二度目のは下らねばなりません。
- 88弱吟の場合のクリ節は必ず前にウキ、強吟の場合は必ずハネ、息継ぎは皆文字を消します。文字を生かしてしたのでは句読になつてしまひます。
- 215坂元氏の評を聞くと、それでも随分やつてやつてやりのけて、そこらあたりにハネを盛んに上げたとのことだ。自分ではもつと底力を蓄へた大きな圧カといつたものが出したい。この次ぎは、然し何だかうまく行きさうな気がする。
- 353「熊坂」の場合だと、一生懸命になればなるほど、力を入れれば入れる程、徒に荒々しくなるばかりなのだ。二三年前に演つた時も、雪鳥氏から「随分ハネを上げたね」と云はれた。すベての型が皆要点を外れて力が徒費されてゐたからである。