近代能楽用語索引Index of Nō-related Terms in Modern Texts

近代芸談における技芸用語

主にシテ方の技芸にかかわる用語の索引。姿勢、視線などの重要と思われるトピックのほか、『能楽大事典』(筑摩書房)に立項される技術用語を対象としました。同表記・別意味の語を別に立項した場合(例:「運び」を歩き方と謡い方で別立項)も、逆に同意味・別表記の語をまとめて立項した場合(例:眼、目、目玉)もあります。

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ま【間】

宝生九郎『謡曲口伝』(1915)
  • 57師匠はチヤンと教へても、お弟子の方で教へられた通りに守らぬのであらうか、私等は、よしんば拍手の稽古をしない人でも拍手にはチヤンと合ふ様にヤの間でもヤアでもヤでヲもヤヲハでも其寸法通りに教へるのは勿論、其他の緩急の場所なども悉く拍手に外れぬ様に教へて居る。
斉藤香村編『謡曲大講座 寶生九郎口傳集 第一』(1934)
  • 6オ私達は、よしんば拍子の稽古をしない人でも、少くとも拍子には合ふ様に、ヤの間でもヤアでもヤヲでもヤヲハでも、其寸法通りに教へるのは勿論、その他の運びや当りなどが、此処には斯ういふ手があるとか、斯う当るとかいふことは説明しなくても、悉く拍子に外づれぬやうに教へてゐる。(明治四十二年四月)
野口兼資『黒門町芸話』(1943)
  • 48一番づゝを固める習慣をつけますと、節扱ひも文句もハツキリして参りますから、自然その曲は調子も整ひ、位も定まつて来ます。さうすれば何時の程にか、句の終りに振り節を廻し節があつて、次の句にヤヲなりヤヲハなりの間があれば、振り節も廻し節も小さく謡へばよいとか、ヤアの間のものが、謡本にヤアと書いてないものは振りを小さく謡つて廻しを大に廻はす。又大小といふ事は生み字を早く出せば小で、ゆつくり出せば大の扱となる、と云ふやうな事がハツキリと会得されます。かうして一番宛を固めて行く事は暇がかゝるやうですが、全体の結果に於ては寧ろ早く力が作られることになるので御座います。
手塚貞三編『謡曲大講座 手塚亮太郎口傳集』(1934)
  • 15オ「たゞよひ難波江の足元は」のヤアの間は句読を切らずに続けて謡ふのである。これは故梅若実先生の教へである。如何にも最な事で、私は堅く之を守り、門人にも此通りに教へて居る。「実にも誠の弱法師とて」合点して心持ちで謡ふ。
松本長『松韻秘話』(1936)
  • 6前にも云つたやうに、謡はもとく能といふ一種の歌劇の歌詞でありますから、たとへ素謡に於ても、能を本とする事は言を俟ちません。従つて声を腹から出すとか、節扱ひ拍子などの事や、一つとして必要でないものはありませんが、能の謡、囃子の謡、素謡の謡といふやうに、其種類と場合とに応じて、緩急遅速等の別ある事はまぬがれない事であります。極分り易い話が、謡本にはウとかヤ、又はヤヲなどゝある通り、打切には、打切の間を聞いて次句を謡ふと云へ、素謡では打切の謡ひ方はありますが、打切の間は必要としないと同様に、ヤヲハ、ヤヲなどゝあつても、寸法一杯に引き切らなくてはいけないと云ふ事はありません。
  • 12それと同じに引く場合があります。下音でも上音でもヤヲハとか引越しと云ふやうに引く場合がありますが、それが若し塞ぐ字であれば口を塞いで力を込め、あく字であれば口を開いて声を込めるのであります。これは大事な事でこれが声の美を保つばかりでなく同吟の場合や地を謡ふ場合はそれを欠いては仕方のないものになつて仕舞ひます。そのあとにウキのある場合は、つまりよく引いて浮くと云ふ訳で、浮いて口をあけ放しにして謡ふやうではいけません。これは要するに口の開合の力次第で出来る事であります。
  • 111この「なだ」の「な」の出方などは腹に力を入れ、調子を少し締め気味にヤヲの間でうたひだすのであつて、力をぬいてはうたへないのです。といつて無暗に力を入れてイキむこともよくない。松風で特殊な処といへば、この「灘グリ」と一セイの「汐汲車」の「ぐるま」の謡ひ方です。つまり「る」を抑へてうたふ処にあります。
杉山萌圓(夢野久作)『梅津只圓翁伝』(1935)
  • 81それを最初から一枚ぐらい宛、念を入れて直されながら附けて貰ふので、やはり二度ほど繰り返しても記憶え切れないと叱られるのであつた。その本はたしか安政二年版行の青い表紙で、「ウキ」「ヲサへ」や「ヤヲ」「ヤヲハ」又は廻し節、呑み節を叮嚀に直した墨の痕跡と胡粉の痕跡が処々残つてゐる極めて読みづらい本であつた。