〔鸚鵡小町型付〕 △鸚鵡小町 位序々ノ序 ?夫、鸚鵡小町・関寺小町ハ、能も位も同事なれば、此藝之中ノ一大事にて、諸道に至りのなき太夫ハ努々なりがたき能也。委細は?関寺に詳也。よく見合て鍛練有べし。 一?面、老女。?覆鬘の上に?姥髪。?かづら帯、いかにも古きくすミたるよし。?小袖も同位たるべし。唐織其外けつかうなる装束ハ努々不レ可レ用也。小袖ハ?つぼ折にても、或ハぬぎ掛にても吉。其時ハ?かり衣を上に着也。?扇を前にさし、右に?つえつく。 一?脇出立、大臣也。常のごとし。?太刀持、?上下着て、?ゑぼし着シ、供に出る。一?おき鞁にて脇出る。 ?脇出やうの事、真のおき鞁にて、三段打切て、笛ゆりを吹也。其時に出て、?正面之正面を合、扨して柱こす共、必足をはやむべからず。舞臺の真中へゆう??と出て、左足より引、右足ふミすゆる。此時小鞁おとす也。則謡出ス。 一?おき鞁之事、?初段、下、かんより打出す。?二段、下、おつより打出す。?三段、上、かしら一つより打出す。?四段、上、しらむる頭より打出す。?笛ゆる也。?五段、中、頭二つより打出す。?扨其次、?かんより打出し、其次、?おつより笛と同様に行、一度に留る也。 一?脇の謡ハ書略ス。名乗過て常ノ脇座になをる。?笛ひしぎ、跡、真之音取吹也。?鞁も真の一聲。但半越なり。 ?一聲にも亦五段の習あり。?越之前に頭一ツ?越ノ頭一ツ?しらめ頭一ツ、是を出頭と号。扨太夫出て?やすミ頭一ツ。是より位猶静に打て、又?頭一ツ打事也。 一?太夫の出時分ハ、一聲打上たる跡に、地を又ゆう??と打て、又打切頭あり。其時に幕上さ ?爰の皷のあひせ、奥よりほの??と静に出て、橋掛り一間計あゆミ、?正面向立どまる。是を見て、鞁又打しらひ様?卒都婆小町に書記 切、やすミ頭を打也。太夫ハ杖を前につかえ、左りの手くびを右のつかえたる手くびの上に打もたせて、息つぎをして、くたびれたる躰にやすミ、扨又あゆミ出て、舞臺まで出て、序所に立て謡ひ出す也。 正面向、又つえ前に両の手かけつきて 太夫身はひとり、我は誰をかまつ坂や、四の宮河原よつの辻、いつ又六の、ちまたならむ、?昔ハ芙蓉の花たりし身なれ共、今ハれいでうの草となる、顔ばせハせうすいとおとろへ、はだへはとうりのなしのごとし、 そとつえを見るしかたもあり 杖つくならでハちからもなし、人を恨ミ身をかこち、ないつわらふつやすからねば、 なくもよしと古人云し也 物狂と人はいふ、さりとてハ、捨ぬ命の身にそひて、??、面影につくもがミ、かゝらざりせばかゝらじと、 爰にてなく事本也。 然共初なきたる時ハ愛にて不レ涕 昔をこふる忍びねの、夢ハねざめの長きよを、あきはてたりな我心、?? 脇立て正面向 太夫を見て 則脇を見る ?是なるが小町にて有げに候、先々尋ふずるにて候、いかに是なるハ小町にて有か 太夫?見奉れ ば雲の上人にてましますが、小町と承候かや、何事にて候ぞ 脇扨此程ハいづくを住家と定けるぞ 太夫誰留るとハなけれ共、唯関寺邊に日数を送り候 脇実々関寺ハさすがに都遠からで、閑居 つえにてうしろをおしへる仕舞も有 にハ面白き在所なり 太夫前にハ牛馬の通ひ路有て 脇貴も行賎しきも過 太夫うしろにハれいけん 此返しより正面へ出 の山たかふして 脇しかも道もなく 太夫春ハ 脇春がすミ 上同音立出見れば深山邉の、??、梢に 引とまり る。脇ハ本座になをる はしがゝりの枩を又見やり かゝる白雲ハ、花かと見えて面白や、松風も匂ひ、枕に花散て、それとばかりに白雲の、色香お 見上、見やる まハりざまに北へ向もよし 又少立どまり見やり ひがしを見て もしろき気色かな、北に出れば湖の、志賀から崎の一枩ハ、身の類ひなる物を、東に向へばあり 正面見て 脇を見る 難や、石山の観世音、瀬田の長橋ハ狂人の、つれなき命の、かゝるためし成べし ?「石山の観世音」とおがミ、?「瀬田の長橋」と足もとを見るなどハ、こまか過、狂言めきて悪敷事ニ候。右の文句ハ、関寺に閑居をしめてハかゝる面白キ所ぞと、景気を云たる計也。あまりに物多ク候へば、小町老足の身として、一言の詞の下にかけ走たる理に成侍り。是、萬事□つたハり候。よく??鍛練可レ有義也。 太夫?かくて都の戀しき時ハ、柴の庵にしばしとゞむべき友もなければ、便りなしの杖にすがり、 脇を見る 都路に出て物をこふ、乞えぬ時ハ涙のせき寺に帰候 脇いかに小町、扨今も歌をよミ候べきか 太夫我古へもゝか仙洞のまじハりたりし時にこそ、ことによそへて哥をもよみしが、今ハ花すゝ 脇を見る きのほに出そめて霜のかゝれる有様にて、浮世にながらふるばかりにて候 脇実尤道理なり、御 脇短冊とり出す 門より御あはれみの御哥を下されて候、是々見候へ 太夫何と御門より御憐ミの御哥を下されて 少さし寄てつくばふ つえは右の脇ニ置て右の膝にておさへ敷物也 候とや、あら有難や候、老眼にて文字もさだかに見えわかず候程に、それにてあそばされ候へ 脇少正面むきて短冊上 き く 躰 専 也 脇さらばそれにて聞候へ 太夫いかにもたからかにあそばされ候へ 脇雲の上は 太夫雲の上は 脇雲 感じたる躰肝要也 の上は、有し昔にかハらねど、見し玉だれの内や床しき 太夫あら面白の御哥や候、悲しやなふ か(る)き流れをくミて、水上をたゞす〈とす〉れど、哥よむべし共思はれず、又申さぬ時ハ恐也、所 太夫を見る也 詮此返哥を一字にて申さう 脇不思議の事を申者かな、夫歌ハ三十一字をつらねてだに、心のた 脇を見やり 弥々 らぬ哥も有に、一字の返哥と申事、是も狂気のゆへやらむ 太夫いやぞと云字こそ返哥なれ 脇ぞ 太夫を見 弥々脇を見 弥々短冊差上て正面向て と云文字とハ扨いかに 太夫さらば御門の御哥を詠吟せさせ給ふべし 脇ふしんながらもさし上て、 太夫の方へ向 雲の上は、有し昔にかハらねど、見し玉だれの内や床しき 太夫さればこそ内や床しきを引かへて、 脇を見る 内ぞ床しきとよむ時ハ、小町がよミたる返哥也 脇扨古へもかゝるためしの有哉らん 太夫なふ鸚 正面向 鵡返しと云事は 地此哥の様を申也、御門の御哥を、ばひまいらせてよむ時ハ、天のおそれもい 正面をおがむ 脇を かならむ、和歌の道ならば、神もゆるしおハしませ、貴からずして、高位にまじハると云事、唯 見る 和哥の徳とかや、?? 同音?夫哥の様を尋るに、長哥短哥せんどうか、おりくはいかいこんぼんか鸚鵡返し、廻文哥也 太夫なかんづく鸚鵡返しと云事、もろこしにひとつの鳥あり 地其名を鸚鵡と云へり、人の云言葉を受て、則おのがさへづりとす 太夫何ぞといへば何ぞとこたふ 地鸚鵡 爰にて脇を見 の鳥のごとくに、哥の返哥もかくのごとくなれば、あふむ返しとは申也 観世にハ曲舞ニかゝる時脇を見る。萬の能かくのごとし。是則二座の替りの定る法也 述懐の心を含、謡はやす事肝要也  幽玄の心を含 同音実や哥の様、語に付〈て〉古への、猶思ハるゝはかなさよ、さればこしかたの、代々の集の 哥人の、其おほくある中に、今の小町ハ、たへなる花の色このミ、哥の様さへおふなにて、唯よ 脇にあひしらひ、脇も太夫を見ル わ??と讀とこそ、家々の、書傳にもしるし置給へり 太夫和歌のりくぎを尋しにも 地小町が哥 恋慕の心を含、謡はやす をこそ、唯こと哥のためしに、ひくのミか我ながら、美人の形も世にすぐれ、よてうの花とつくられ、桃花雨をおび、りうはつ風にたをやか也、ししゆむ猶うごきほこり、利花ハなのミ成しか 述懐にて又終ル。太夫ハ少うつぶきたるがよし 脇太夫を見る ど、今せうすいとおちぶれて、心躰ひじゆつする、小町ぞ哀なりける ?此曲舞ハ幽玄の文句おほければ、いさめる心有に依て、謡、はやし物も?関寺よりハ少かるきたよりあり。 脇?いかに小町、業平玉津嶋にての法楽の舞をまなび候へ 太夫何と業平玉津嶋にての法楽の舞を つえとり、両手にてつかえ立て まなべと候や 脇中々 太夫?扨も業平玉津島に参り給ふと聞えしかば、我もおなじく参らんと、都をばまだ夜をこめていなり山、くずはの里も浦近く、和哥吹上にさしかゝり △はやし物に上手なくて能をかるくする時ハ、爰にて物ぎあり。立て右へ行、居座へ入て、小袖ぬぎかけ、長けん着し、金の風折をきる。又?爰にて物ぎ無レ之時ハ、老女の男博士ノ舞なるゆへに、?関寺よりも心入大事にて候。 又序所へ出てうたふ。扇持  太夫しづかに出る  うちこミ引  左右にゆうに引 太夫玉津嶋に参りつゝ 地玉津嶋に参りつゝ、業平の舞の袖、思ひめぐらす忍ぶずり、とくさ色の 左手にて左りの前を少とる 扇 右 へ 上 足拍子にて乗込引て、則右へ小廻りして序をふミ出す 狩衣に、大もんの、桍のそばをとり、風折ゑぼしめされつゝ、和光の光り玉津嶋、めぐらす袖や、 爰にて △序之舞、かんの掛りにて、?蘇合五段也。?角之拍子、三足半も則書記。 一?かんの掛りハ、?定家に雖レ有レ之、序ノおろし?六同にて、相違致候間、又爰に具記者也。 △かんのかゝりぞと云約束の笛の序。然る間、常の舞にハ此序に無二吹出事一。 上 ●中ほひやあ らあ りんやらあ りやあら 上  上  中 下ひようゐ ●中ひやあるり りい ●ひゐういやあ ひしぎ  下 中  下 ●中ほひやあ らあ ひゐ ひうい ●ひういやあ 下  中  常のおろし也 上 下 らゝろい ●ほひようらありうろう● 是を序ノ序ト号 下  中  上 ●右足下 中ひようらあ らあらろ ひ う ろ り ほ 角ノ拍子也 ●左足  ●左足 上かんニ 太夫ハ左右に引 上同合ル  上同  中 ●右足拍子ニ ○ひう引持  やあ引持  らあ引  ●ひやあ ら とろ ●左足拍子ニ 是より常の舞也 上ひうやあ ひうろういひやるり ●左足拍子ニ 爰にて半足左足すり出すに依テ三足半ト号 一?扨、五段?蘇合之習ハ、?関寺に委細に記侍り。然間、爰にハ書略ス。?説ニ云、長絹を着た る舞に?つまむ扇ハ古来より嫌フ。此鸚鵡に長絹を着し侍らば?蘇合成がたかるべし、と云へり。 春日太夫彦三郎云、鸚鵡ハ又常の能とハ替大事の能なれば、?蘇合にて無レ之時ハ大事也(之)せんな し。殊に白拍子ノ類の小町なれば、扇つまむもくるしからず。可レ舞と云へり。 上常のごとく 和哥の足ニ左りへ行 右へ行 ●右足 打込引 太夫?和哥の浦に、しほミちくれば、かたを浪 地あし邊をさして、田啼わたる、なき渡る ●左足 爰より位静に謡舞はやす也  身をかへ正面へ出る  引て見上  静に右へ廻 太夫たつ名もよしなや、忍び音の 地たつ名もよしなや、忍び音の、月にはめでじ 太夫是ぞ此 扇たゝミ前に指、居座?杖とり持 則右へ迴りたる内ニ 杖つき正面へ出る也 地つもれば人の 太夫老と成ものを 地か程にはやき、光りの陰の、時人をまたぬ、習ひとは白 杖にて舞臺をつき 左手にてなきとゞす 是より又さハやかに打て少はやめる 脇立て正面の方へ向 浪の、あら恋しの、昔やな 同かくて此日も、暮行まゝに、さらばといひて、行家都に、帰りけ 又位をしづむる 脇 を 見 や り つえを両手にてつ□え立躰肝要也。足を跡へよろ??とする也 廻り序所へ行 れば 太夫小町も今は、是までなりと 地つえにすがりて、よろ??と、立別、行袖の涙、立わか なく??右へ 常の所にて見とめ入 れ行袖のなミだも関寺の、柴の庵に、帰りけり 右今春家而無レ之能而候故、斟酌候へ共、依二御執心一八木権頭秘密相傳之趣一点不レ浅(残)令二傳受一候。聊他見有間敷候。否。 年号月日 幸孫六判 右自筆自判之書物を以テ写レ之進之候。于レ余替仕舞於レ有レ是者可レ為二似事一者也。 寛文五乙暦 秋扇翁 二月下旬 照三(朱印影模写)(花押) 松井与兵衛殿参