江戸初期筆「秋田城介型付」の復元:報告と討議
2014年11月24日に、東北大学附属図書館蔵「秋田城介型付」の復元の報告会をおこないました。
本資料は、下間少進の弟子であった常陸宍戸藩主秋田城介実季(1567-1659)の記した型付であり、江戸初期の能の実態について考える上で重要な位置にある型付と言えます。
「秋田城介型付」研究会(江口文恵〔法政大学能楽研究所兼任所員〕・中司由起子〔同前〕・深澤希望〔法政大学大学院博士後期課程〕・柳瀬千穂〔同前〕・小田幸子〔明治学院大学非常勤講師〕・山中玲子〔法政大学能楽研究所所長〕)では、2011年より継続して翻刻と内容解釈を行い、2012年 11月にワークショップ「江戸初期型付に基づく実験的復元」(於、銕仙会能楽研修所)では〈千手・自然居士〉クセ、〈田村・山姥〉キリの復元を試みました。これらの成果を踏まえつつ、部分的ではなく〈花月〉一曲の復元を試みることと、型付用語の語義の検討が本企画の趣旨です。
■2014年 11月 24日(月)
於、法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー 26階スカイホール
14:00~ 15:30 〈花月〉復元の報告 中司由起子(法政大学能楽研究所兼任所員)
15:30~ 15:50 「秋田城介型付」における“ヨセイ”柳瀬千穂(法政大学大学院博士後期課程)
16:00~ 16:30 討議 井上貴覚(シテ方金春流能楽師)・中司由起子・柳瀬千穂
中司氏の報告は、用語の検討や同時代の型付との比較に基づき、どのように型を解釈したかについて〈花月〉一曲の流れに沿って解説し、復元における問題点等を指摘しました。事前に撮影した映像を用い、画面左右に復元の型と現行の型とを並べて映し出すことで差異を比較しやすいものとなりました。なお、型の撮影にあたり、井上貴覚氏(シテ方金春流)・辻井八郎氏(同)・林美佐氏(同)・大蔵教義氏(狂言方大蔵流)にご協力いただきました。
柳瀬氏は型付に用いられる用語「ヨセイ」を取り上げ、用例によって「演技に、ある心持を込めるという意味のヨセイ」「演技を示す語として慣用化したヨセイ」「登場楽の余韻のなかのヨセイ」に分類し、その語義を検討しました。両氏の報告の後、井上貴覚氏を交えての討議では、今回復元した〈花月〉の型は現行の型と比べて違和感のないものであったと井上氏がコメント。それを受けて、残りの曲の復元も視野に入れ、さらに詳しく「秋田城介型付」の特徴について検討していく必要があることを確認しました。古型付を読み解き、型を復元するための方法を確立して行く上で、有意義な催しとなりました。参加者は 52名。