依頼型共同研究 活動報告
間狂言資料集成の作成とアイ語りを視点とする夢幻能の再検討
研究代表者 西村聡 金沢大学人間社会学域人文学類教授
研究分担者 小田幸子 明治学院大学非常勤講師
岩崎雅彦 國學院大學非常勤講師
伊海孝充 法政大学文学部教授
網本尚子 東京富士大学教授
【目的】
間狂言資料は個人蔵を除けば大半が野上記念法政大学能楽研究所に収蔵されている(鴻山文庫を含む)。また、これまで研究に利用されてきた間狂言資料は翻刻や影印が刊行されている大蔵流の資料に偏る傾向がある。和泉流や鷺流の資料を広く視野に入れて、三流の相違や変遷を把握することが必要でありながら、そこまでの準備をして能の作品研究に活用することは容易でなかった。さらに、間狂言で語られる内容はシテの語りを要約、再説するという見方を大きく出ない理解にとどまることが少なくない。しかし、当事者(シテ)と第三者(アイ)の語りにはそれぞれの立場の違いが反映して当然であり、その違いが能の作品構成にどう活かされているかを分析することで、特に夢幻能各作品の理解や評価は更新してゆけるであろう。このような問題意識と見通しのもと、特に和泉流や鷺流の未翻刻資料を集成し、広く能楽研究者及び一般愛好者に紹介・提供するとともに、アイ語りを視点とする夢幻能の再検討を具体的な作品研究の形で集積することが目的である。未翻刻資料の研究利用が進み、三流の相違や変遷を踏まえた能の作品研究の活性化が期待される。
【方法】野上記念法政大学能楽研究所収蔵の間狂言資料の全体及び概要は『蔵書目録附解題』(1954年)及び『鴻山文庫蔵能楽資料解題下』(2014年)によって把握できる。これらに記載される間狂言資料(特に和泉流・鷺流の資料)の中から翻刻すべき資料を選定し、写真撮影を実施して順次翻刻作業を進める。撮影・翻刻には焼き付け・複写関連の消耗品やアルバイト謝金が必要となる。撮影・翻刻作業と並行して共同研究のメンバーで各自具体的な検討作品を選び、まずはその作品に限って間狂言資料(大蔵流資料も含む)を多数比較し、さらにその結果を作品研究にどう活用するかを発表し合う研究会を東京と金沢で各1回開催する。翻刻及び作品研究の成果は次年度以降に順次公表してゆく。
【活動】
法政大学能楽研究所蔵の間狂言資料の中から以下の5点を選定し、研究代表者・研究分担者が研究協力者10名とともに各資料の翻刻作業を進め、凡例案の作成までを行った。
- 升形本「あい之本」2冊72番。江戸初期写。
- 「鷺流間狂言付」2冊124番。元文4年(1739)本間久近写。
- 「鷺流狂言型附遺形書」6冊224番。天保写本を嘉永5年(1852)写。
- 「和泉流間狂言伝書」2冊136番。天保15年(1844)奥書。野村又三郎家。
- 「和泉流間習分」1冊10番。文政4年(1821)写。
・研究分担者打ち合わせ(8月2日):資料の選定と今年度の作業の進め方を申し合わせた。選定した資料の分量を調べ、業者に撮影依頼を行うこととした。
・第1回研究会(9月11日):資料の写真を研究分担者、研究協力者に配布し、各資料の翻刻担当者を決定した。間狂言全般についての情報交換や翻刻方針案についての検討を行った。
・第2回研究会(12月25日):第1回の翻刻方針に関する検討事項に基づき、全体で統一すべき事柄を整理し、資料ごとに異なる事情は翻刻グループ内でさらに詰めることとした。
・第3回研究会(3月8日):翻刻を持ち寄り進捗状況を確認するとともに、翻刻を行う際に気づいた問題点の報告を行った。翻刻の進捗状況は、研究協力者分は判読の困難な部分も含めてほぼ完了、研究分担者分は完了しない資料を残している。
今後の課題としては次のようなことが挙げられる。
・未翻刻部分の完了をめざし、翻刻の正確さを期す。
・翻刻方針(凡例)を資料ごとに確定し、それに基づいて翻刻を統一する。
・翻刻内容を資料ごとに分析し、解題案を作成する。
・水野文庫「鷺流間の本」等別の資料、「遺形書」本狂言部分の撮影・翻刻を進める。
・翻刻資料自体の研究及び翻刻資料を活用した作品研究を発表する。
【成果】
- 論文「『源氏物語』で語る源平合戦―須磨人平家の憂愁と墓標―」西村聡 『石川教育展望』
- 論文「『照葉狂言』を語る未来―一座を越えて行く身体―」西村聡 『金沢大学歴史言語文化学系論集言語・文学篇』9
- 論文「狂言「附子」の題材―笑話と教訓譚―」岩崎雅彦 『伝承文学研究』66