研究集会「能楽資料研究の可能性」
「能楽の国際・学際的研究拠点」第一期におこなった共同研究のうち、テーマ研究Ⅰ「能楽研究所所蔵資料に基づく文献学的・国語学的研究」の総括として、能楽資料研究のさまざまな成果を発表する研究集会「能楽資料研究の可能性」を以下の通りおこないました。
2018 年10 月21 日 法政大学ボアソナードタワー26 階スカイホール
■ プログラム
「江戸時代の能役者の履歴書を読む―『近世諸藩能役者由緒書集成』の刊行に向けて―」 宮本圭造(能楽研究所教授)
「江戸時代初期出版史の中の謡本の出版―古活字玉屋謡本の表紙裏文書を通して―」 落合博志(国文学研究資料館教授)
「能作品の仏教語句を考える」 高橋悠介(慶應義塾大学附属研究所斯道文庫准教授)
「能楽伝書類の国語学的研究 ―規範と記述の問題―」豊島正之(上智大学教授)
宮本の発表は、全国の諸大名約三十家に仕えていた能役者の由緒書の調査研究に関するもの。数多くの由緒書を提示しつつ、江戸時代の能の地方的展開や家元を頂点とする能楽の社会構造の在り方、能役者の社会的身分などについて考察しました。研究成果は能楽資料叢書5『近世諸藩能役者由緒書集成(上)』として刊行されました。
落合氏は、奈良女子大学・中京大学・慶應義塾大学・国文学研究資料館の研究者が参画する謡本研究会のメンバー。2016 年には研究集会「縦断/横断 光悦謡本」と展示「慶長文化の精華 光悦謡本の世界」(慶應義塾大学斯道文庫共催)を開催しました。今回は、古活字玉屋本の表紙裏文書を解読し、江戸時代初期の表紙屋や問屋といった出版業の状況を発表されました。
高橋氏は仏教学や中世神道の研究者を交えた依頼型共同研究「能作品の仏教関係語句データベース作成と能の宗教的背景に関する研究」の研究代表者。能作品中に見える偈句・経文類・仏教語のデータベース作成の過程で明らかになった、仏教関連語句の注釈に関する発表。能に摂取されるまでの段階や日本で展開した偈句の成り立ちなどに着目し、これまでは指摘されていなかった新たな典拠を示されました。
豊島氏は金沢大学・日本女子大学・京都府立大学・信州大学・お茶の水女子大学等の言語学研究者による、能楽資料に基づく国語学的研究の代表者。2016 年には研究集会「国語学から見た能楽伝書」を開催した。今回の発表では能楽伝書における「五音(ゴオン/ゴイン)」の混乱や謡伝書の言語記事が音声の記述であるのか、規範であるのかを表記と実態から考察されました。
参加者64 名