活動報告
2019年度 能楽学会 第18回大会
能楽学会と共催で2019年度研究大会を以下の通り、開催しました。
◆10月19日(土)
◆会場:法政大学 市ヶ谷キャンパススカイホール ボアソナード・タワー26階
◆プログラム
代表挨拶(10:30 ~10:35) 三宅晶子氏(奈良大学文学部教授)
研究発表(10:35 ~11:15)
「〈嵐山〉間狂言考―能を補完する間狂言―」富山隆広氏(法政大学大学院生)
トークセッション「お稽古の現在」(11:20 ~ 12:40)
佐久間二郎氏(シテ方観世流能楽師)・和田優子氏・朝原基弘氏
〔司会〕横山太郎氏(立教大学現代心理学部教授)
総会(13:40 ~ 14:00)
大会企画「家元のアーカイブ」 (14:00 ~ 17:30)
【趣旨説明】宮本圭造氏(法政大学能楽研究所教授)
【報 告】
1「観世文庫の文献資料の形成と現状」高橋悠介氏(慶應義塾大学附属研究所斯道文庫准教授)
2「金春家文書の形成と流転」宮本圭造氏
【講 演】
「表千家不審菴に伝わる茶書について」原田茂弘氏(表千家不審菴文庫主席研究員)
【全体討議】〔司会〕横山太郎氏
懇親会(18:00 ~ 20:00)於 法政大学A会議室(ボアソナード・タワー26階)
研究発表は富山隆広氏(法政大学大学院生)による「〈嵐山〉間狂言考―能を補完する間狂言―」。〈嵐山〉の内容や伝書類の記述などを分析し、〈嵐山〉成立時の間狂言が従来考えられていた猿聟ではなく末社アイであった可能性を指摘しました。
続くトークセッションでは、シテ方観世流能楽師の佐久間氏に稽古の実際や工夫などをうかがいました。和田氏には逆に稽古を受けている立場からの視点でご発言をいただき、朝原氏には子ども対象の発表会や学生仕舞会の企画等、関西の能楽事情についてもお話いただきました。
大会企画のテーマ「家元のアーカイブ」は、本年が『金春古伝書集成』(わんや書店)の刊行から五十年の節目に当たること、また近年進展を見せている観世文庫、金春家のアーカイブ研究に因み企画されました。報告2本と講演、そして全体討議というプログラム。
【報告1】「観世文庫の文献資料の形成と現状」高橋悠介氏(慶應義塾大学斯道文庫准教授)は、2003年以降の松岡心平氏(東京大学教授)を中心とする観世文庫の資料調査が大詰めを迎え、年度末刊行を目指して約五千点の資料目録の編集作業中であることが報告されました。世阿弥伝書をはじめ能楽の重要資料の保存と継承、歴代大夫の動向等を、家元の蔵書ならではの性格として指摘。また、同装丁の資料の検討によって当該時代のアーカイブ意識を把握し得ることも示されました。
【報告2】「金春家文書の形成と流転」宮本圭造氏(法政大学能楽研究所教授)は、近年その存在が明らかとなった金春宗家蔵資料の悉皆調査が行われ、能楽研究所般若窟文庫蔵分と合わせ約四千点にのぼる金春家文書の全体像が明らかになりつつあることが報告されました。金春家の特徴としては、金春八左衛門家や大蔵庄左衛門家など分家が複数存在した点であり、大夫家と分家が相互補完し合ってきた経緯から副本形成がなされたこと、諸家のアーカイブを紐解くことにより、江戸と奈良の文書保管の様相を推定し得ること等を示されました。
【講演】「表千家不審菴に伝わる茶書について」原田茂弘氏(表千家不審菴文庫主席研究員)では、「見て学ぶ」という利休の教えにより二代三代には茶書がなく四代江岑宗左によって初めて残されたこと、茶書よりも道具を重要視する等の特徴を示されました。表千家不審菴文庫では新出資料の発見がままあり、少なくとも三千点の資料を有します。能に比べて茶の湯のアーカイブ公開は遅れているのが現状とのことであったが、茶の湯の世界の「家元のアーカイブ」は今後の進展に期待がもたれる領域であるようです。
全体討議は、観世文庫調査の中心メンバーである横山太郎氏(立教大学教授)の司会で進行。登壇者間はもちろんフロアーからも多くの質問があり、有意義な内容となりました。会場からは、「家元のアーカイブ」を読み解くことでもたらされる研究の進展に対する期待の声が多く上がりました。