活動報告
能楽のウェブ発信とその未来 ―デジタル資料アーカイブから新たなコンテンツ制作の試みまで―
【日時】2017年10月22日(日) 午後1:30~5:00
【場所】法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー26階 スカイホール
プログラム
「能楽のウェブ発信の課題と現状、そして今後の可能性」宮本圭造(法政大学能楽研究所教授)
「歴史的典籍NW事業が描く研究の未来」山本和明(国文学研究資料館教授)
「デジタルとアナログの狭間で ―パフォーミングアーツにおけるデジタルヒューマニティーズ―」赤間亮(立命館大学アート・リサーチセンター副センター長)
「画像イメージが伝える能の演技・テクスト・文化をどう見せるか―これまでの取り組みと今後の展望―」モニカ・ベーテ(中世日本文化研究所所長)
「西洋音楽に関連づけた謡の情報発信」伊藤克亘(法政大学情報科学部教授)
全体討議 司会:山中玲子(法政大学能楽研究所所長)
はじめに、宮本圭造が「能楽のウェブ発信の課題と現状、そして今後の可能性」と題し、本研究集会の趣旨説明と、能楽研究所の取り組みを報告した。能楽資料デジタルアーカイブを主軸とし、昭和初頭の能楽映像の公開や、弘化勧進能絵巻のバーチャルミュージアム等のコンテンツ制作の試みを紹介した。
次に、山本和明氏(国文学研究資料館教授)が「歴史的典籍N W事業が描く研究の未来」と題して、国の大規模学術フロンティア促進事業(2014年採択)である「新古典籍総合データベース」について紹介された。10年計画で30万点の画像データを作成予定とのこと。新データベースに搭載されたタグ検索機能は、専門外の分野での関連資料発見を可能にする、今後成長が見込まれる検索方法であるという。ただ、膨大な画像数のタグ付には、かなりのマンパワーを要する見込みとのことである。
赤間亮氏(立命館大学アート・リサーチセンター副センター長)が「デジタルとアナログの狭間でパフォーミングアーツにおけるデジタルヒューマニティーズ」と題して、アート・リサーチセンター(ARC)における海外の美術館・個人コレクションをはじめとする幅広い協力関係と、画像オンライン公開方法を紹介された。今後の構想としては、他機関オンラインデータベースとの相互リンクや、サイバー学会を可能にする機能(テキストアーカイブシステム・電子展示システム等)の構築を検討中とのことである。
その後、モニカ・ベーテ氏(中世日本文化研究所所長)が「画像イメージが伝える能の演技・テクスト・文化をどう見せるか一これまでの取り組みと今後の展望-Jと題して、1997年に米コーネル大学のカレン・ブラゼル教授が立ち上げた国際組織GloPACと、そのデータベース(GloPAD)・日本伝統芸能資料サイト(]PARC。GloPACのプロジ、ェクトのひとつ)の運営を紹介された。JPARCの画像をより高画質なものにするための修正作業が、ARCとの協力で現在進行中とのことである。最後に、伊藤克E氏(法政大学情報科学部教授)が「西洋音楽に関連づけた謡の情報発信」として、現在ほとんど試みられていない能の音楽のデジタル処理による具体的なコンテンツ作成の可能性について、音声研究の立場から述べられた。本拠点公募型共同研究課題「コンビュータによる謡のメロディに関する客観的な分析基盤の確立」(2016年度採択)の成果でもある。
全体討議は山中玲子の司会で進行。諸氏の発言の要点をまとめると、①大前提としてのオープンデータ化の推進、②アップデートやコピーライトの問題解決、③ジャンルごとの共通プラットホームの環境整備(古典籍は国文研、演劇はJPARC等)を実現するための各機関の相互連携、④単なるデータの蓄積にとどまらず研究・啓蒙の上で有益なデータ利用を可能にするシステム構築、⑤多言語に対応した情報発信、が共通認識として提示されたと思われる。⑤に関する能楽研究所の取り組みとしては、最新の研究成果に基づく『英語版能楽全書』の出版とウェブ公開のプロジェクトが現在進行中であることも報告された。台風接近による悪天候のため、少人数の参加者となってしまったが、大変有意義な研究集会であった。