活動報告
第20回能楽セミナー「シンポジウム 以心伝心・以身伝身―「ワザを伝えるワザ」とは何か?―」/ 資料展示「能付資料の世界―技芸伝承の軌跡をたどる―」 /ワークショップ「型付だけで舞えますか」
「能の技芸伝承」をテーマに三つの催しをおこないました。
資料展示「能付資料の世界―技芸伝承の軌跡をたどる―」
期間:2018年2月20日~3月24日
会場:法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー14階 博物館展示室
開室時間10:00 ~ 18:00 ※ただし2/28(水)は19:00まで開室。
休室日:日曜日・祝日
ギャラリートーク 2/28(水)18:30 ~ 19:00
資料展示では、所作やそのタイミングを書き留めた型付、囃子の各パートの譜である囃子付等の古資料のほか、絵図・写真といった近代以降のメディアも紹介した。また作リ物付に記載の寸法・解説を元に〈大瓶猩々〉の壷の作リ物を制作した(制作:野口隆行氏)。
第20回能楽セミナー「シンポジウム 以心伝心・以身伝身―「ワザを伝えるワザ」とは何か?―」
日時:3月12日(月)13:00~17:00
会場:法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー26階 スカイホール
プログラム
1能の技芸伝承―趣旨説明をかねて― 山中玲子(法政大学能楽研究所所長)
2所作を書き留め伝える技術―型付の機能を考える― 深澤希望(法政大学大学院博士後期課程)
3技芸伝承におけることばと身体―素人稽古のコミュニケーションを分析する― 横山太郎(跡見学園女子大学准教授)
4客観的な動作分析からみたワザ伝達の要因(大島氏稽古のデータを踏まえて) 林容市(法政大学文学部心理学科講師)
5玄人の稽古・素人の稽古 大島輝久(シテ方喜多流能楽師) 聞き手 山中玲子
6全体討論
はじめに山中玲子(能楽研究所所長)が「能の技芸伝承―趣旨説明をかねて―」と題した発表をおこなった。技芸を伝承する媒体として、能には実技に関わる教えや心覚えを書き留めた「付」と呼ばれる資料(文書・絵図・楽譜)があり、付には個人的なメモから規範や権威を示すものまで目的に幅があることや、江戸時代の藩主が編纂した付や近代に家元が素人へ向けて出版した付などを説明、付資料の多様なありようを指摘しました。
深澤希望(法政大学大学院生)「所作を書き留め、伝える技術―型付の機能を考える―」は、江戸時代の型付の例をあげて、所作単元の名称を用いる記述法を紹介し、この記述法を確立する過程で連続する動作を分析・相対化する視点が能楽師に備わったことを指摘。型付が作られたことの意義について考察しました。
続く後半二本の発表は、2016 年9 月に喜多流能楽師大島輝久氏が、都内大学能楽サークル新入生8 名に基本の型の稽古をつけた実験的稽古と、その様子をモーションキャプチャ撮影したデータに基づくものです。横山太郎氏(跡見学園女子大学准教授)「技芸伝承におけることばと身体―素人稽古のコミュニケーションを分析する―」は、素人一人ひとりで異なる身体性をさまざまな「言語化されたわざ」で大島氏が表現していた点を指摘し、これと同様のプロセスが16 世紀からあらゆる師弟関係でも発生していたと推定しました。こうして「言語化されたわざ」の幾つかは一般性を獲得し、師匠自身をも規定していったのではないかとの説を提示されました。
林容市氏(法政大学文学部講師)「客観的な動作分析からみたワザ伝達の要因(大島氏稽古のデータを踏まえて)」は、モーションキャプチャデータの動作分析(バイオメカニクス)に基づいた研究。目を閉じていても手足や体の姿勢・位置を認識できる感覚、いわゆる固有受容感覚の個人的な感度の違いによって、同じ稽古を受けても所作の習得状況に差異が出てくる可能性を指摘し、動作の伝達時には師匠と弟子で所作中の身体感覚や動作のイメージを共有することが重要となると述べられました。実験に参加された大島氏には「玄人の稽古・素人の稽古」と題して、子どもの頃の稽古から現在までにどのような稽古をしてきたか、また素人の稽古に対する意見などをうかがいました(聞き手:山中)。最後は全体討議。大島氏のほか、会場からは宝生流能楽師の高橋憲正氏や金春流の中村昌弘氏の発言もあり、活発な質疑応答がなされました。参加者約150 名。
ワークショップ「型付だけで舞えますか」
日時 ①2月28日(水)19:00~19:45、②3月12日(月)11:30~12:15
会場:法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー26階 A会議室
講師:高橋憲正(シテ方宝生流能楽師)
ワークショップ「型付だけで舞えますか」は、高橋憲正氏を講師に迎え、一般参加者が型付のみを見て自分たちだけで型付を解釈しながら体を動かす場合と、講師による実演付き説明を聞きながら舞ってみる場合の型の理解度の違いを体感する講座。2 日間の参加者計57 名。