テーマ設定型共同研究 活動報告
① 能楽研究所所蔵資料に基づく文献学的・国語学的研究
研究代表者:小林健二・宮本圭造
【研究概要】
能楽研究の基盤を強化するための共同研究として、関係機関と協力して、文献資料に基づく共同研究をおこない、重要文献の翻刻とデジタル化、ホームページ上での公開を進めます。
江戸初期の版行謡本及び能楽伝書に関しては、出版文化史・国語学など幅広いアプローチからの学際的な研究をおこないます。
◆2018年度 研究活動
6 年間にわたる研究成果の総括として、本年度は主に下記のような活動を行いました。
・ 研究集会「能楽資料研究の可能性」を10 月21日に開催し、日本語学・仏教学・版本書誌学・歴史学など、従来の能楽研究の枠組みを超えた幅広いアプローチに基づく最新の取り組みを紹介しました。報告者は宮本圭造・落合博志・高橋悠介・豊島正之の4 名。また、豊島正之が中心となって行った能楽伝書の国語学的研究の共同研究の成果の一端として、竹村明日香・宇野和・池田來未「謡伝書における五十音図」が『日本語の研究』第14 巻4 号に掲載されました。
・ 江戸初期に刊行された光悦謡本をタイポグラフィデザインや造本・装丁デザインをめぐる造形学的知見から分析する武蔵野美術大学の研究プロジェクト( 研究プロジェクト長・新島実) に全面的に協力しました。11 月~ 12 月に武蔵野美術大学で行われた展示「和語表記による和様刊本の源流」に共催者として参画したほか、11 月4 日に開催された講演会「和様刊本の諸相」で宮本圭造が「謡本出版史の中の光悦謡本」と題して報告を行いました。
・ 江戸時代に京都で活躍した幸流小鼓役者山崎家旧蔵の能楽資料の目録作成を前年度に引き続き行いました。当初は2018 年度中に目録を刊行する予定でしたが、資料確認に予想以上の時間を要し、目下、なるべく早い時期の刊行を目指し、鋭意作業を進めているところです。
◆2018年度 成果
・論文「謡伝書における五十音図―発音注記に着目して―」竹村明日香・宇野和・池田來未、『日本語の研究』14(4) 2018年12月
◆2017年度 研究活動
能楽資料に基づく学際研究は様々な可能性を秘めています。2017年度はその可能性を探る試みとして、以下のような研究を行いました。
・小林千草「中世「能の語り」の汎用性とキリシタン版『太平記抜書』語り復元―『太平記抜書』「阿新丸の段」と能「壇風」―」
キリシタン版『太平記抜書』が当時どのように読み上げられていたか、能の語りの抑揚、聞などを応用し、『太平記抜書』の語り口を復元する試みが行われました。語り復元の実演は、ワキ方福王流の福王和幸。能楽学会との共催。
・シンポジウム「能楽のウェブ発信とその未来―デジタル資料アーカイブから新たなコンテンツ制作の試みまで―」
能楽のウェブ発信のあり方をめぐって、国文学研究資料館、立命館大学ア―ト・リサーチセンタ一、JPARCにおける先進的な取り組みの紹介とともに、その意義、可能性、今後の展望等、多様な問題が論じられました。
・幸流小鼓山崎家旧蔵能楽資料の調査
江戸時代に京都で活躍した幸流小鼓役者山崎家旧蔵の小鼓・大鼓の付の類、謡本や相伝状など、200点を超える能楽資料の目録作成に向けた調査を高桑いづみ・中司由起子が中心となって行っています。2015年に実施した企画「よみがえる鼓胴」の元になった資料。2018年度中に目録を刊行する予定。
◆2017年度 成果
・伊達家旧蔵能楽資料159点のデジタル化を完了、各資料の解題を作成。
・能楽資料デジタルアーカイブに作リ物関連資料と江戸時代中期の狂言台本をアップロード。
・論文「キリシタン日本語文典の典拠問題と電子化テキスト」豊島正之『訓点語と訓点資料』140
・論文「玉屋謡本の研究(四)」伊海孝充『能楽研究』42号
・論文「〈通盛〉前場のシテ・ツレ登場段をめぐって」山中玲子『能楽研究』42
・論文「『吾妻鏡』刊本小考」小秋元段『増補太平記と古活字版の時代』
・論文「源氏物語と能楽研究」山中玲子『能と狂言』15
◆2016年度 研究活動
能楽研究の基礎となる文献資料の翻刻と公開、及び文献資料に基づく学際的な研究の構築をめざし、2016年度は以下のような研究を行いました。
・能楽資料に基づく国語学的研究の成果報告の一環として、10月に「国語学から見た能楽伝書」と題する研究集会を開催しました。上智大学の豊島正之教授がコーディネーターとなり、金沢大学・日本女子大学・京都府立大学・信州大学・お茶の水女子大学の研究者を迎えて、能楽伝書のデータベースを活用した研究の可能性、謡伝書に見える音声記述や現行の謡曲の音声と音韻との関係など、活発な議論が繰り広げられました。
・能楽学会との共催で小林千草「幕末期大蔵流台本「悪太郎」の実態と声による復元」と題する研究発表を行いました。発表の中で、大蔵流狂言師の山本則重・山本則秀の協力により、成城大学図書館蔵大蔵流台本「悪太郎」の音声の復元が試みられました。
◆2016年度 成果
・能楽研究叢書 『近代日本と能楽』刊行。2013年度の能楽セミナー「近代日本と能楽」の登壇者に加え、明治大学の伊藤真紀准教授、韓国・翰林大学の徐禎完教授の寄稿を得て、全380頁の大部な書籍となりました。
・能楽研究叢書 『金春家文書の世界』刊行。2014年度開催のシンポジウム「金春家文書の世界―文書が語る金春家の歩み―」に基づく論文集。
・論文「語りとセリフが混交するとき―世阿弥の神能と修羅能を考える―」竹内晶子『能楽研究』41
・論文「玉屋謡本の研究(三)―新出の古活字玉屋謡本伝本の紹介―」伊海孝充『能楽研究』41
・論文「能〈野宮〉の「車」と「月」」倉持長子『明星大学研究紀要』25
◆2015年度 研究活動
2015年度は以下のような研究を行いました。
・ 能楽資料に基づく学際研究のプロジェクトとして、謡本研究会を七月に実施し、その成果に基づいて、2016 年2 月には奈良女子大学・中京大学・慶應義塾大学・国文学研究資料館の研究者の参画により、「縦断/横断 光悦謡本」と題する、より大規模な研究集会を開催しました。同時に、この研究集会に合わせて、江戸初期の謡本に焦点を絞った展示を、慶應義塾大学斯道文庫との共催によって、1 か月半にわたり法政大学展示室で行いました。また、能楽資料に基づく国語学的研究では、上智大学の豊島正之教授を中心として、型付・伝書に見られる用語のデータベース作成のための研究を行いました。
・ 近代能楽史の資料に基づく研究成果として、『近代日本と能楽』と題する報告書の編集を行いました。2016 年度のはじめに刊行の予定。これは一昨年のセミナーの成果報告集ですが、新たに明治大学の伊藤真紀准教授、韓国・翰林大学日本学研究所の徐禎完副所長の寄稿を得て、近代能楽史研究を大きく進めるものとなります。
◆2015年度 成果
・論文「玉屋謡本の研究(二)―「玉屋謡本系」という系統をめぐって―」伊海孝充 『能楽研究』40号
・論文「光悦謡本はどのように作られたのか―成立背景の問題点―」伊海孝充 『観世』82-9
・論文「能役者になったかも知れない尾形光琳―琳派を取り巻く能の環境」 宮本圭造 『観世』83-2
・論文「能〈通小町〉遡源」山中玲子『国語と国文学』93-3
◆2014年度 研究活動
・般若窟文庫及び能楽研究所所蔵の金春家旧伝文書のデジタル化と目録整備を進め、最終的なチェックや検索機能の修正等を経て、デジタルアーカイブを完成(9月)。併行してシテ方金春流宗家蔵の文書の調査・撮影を実施(5~6月)。
・上記の成果をもとに、金春家旧伝文書に関するシンポジウム「金春家文書の世界―文書が語る金春家の歩み―」(9月15日。152名)と資料展示(9月12日~10月6日)をおこないました。
・7月と12月に、江戸初期の謡本に関する研究会を実施。7月は研究所所蔵の資料に関する報告と参加者による現物調査、12月の研究会では、能楽研究・出版史・中世文学研究・書誌研究など、様々な分野の研究者が、謡本における活字組版や古活字本版下筆者の問題、表紙絵や本文の系統などに関して研究発表をおこないました。
◆2014年度 成果
・デジタルアーカイブ「金春家旧伝文書デジタルアーカイブ」 公開。般若窟文庫及び能楽研究所所蔵の金春家旧伝文書の画像と目録のアーカイブ。これにより、従来研究所外からのアクセスがきわめて困難であった般若窟文庫蔵の金春家旧伝文書へのアクセスが大幅に改善されました。
・能楽研究所所蔵資料のデジタル画像公開を進め、光悦謡本(上製本)、永正八年信光伝書など約130点の貴重資料の画像を「能楽資料デジタルアーカイブ」にアップしました(3月)
・能楽資料叢書 『大蔵虎清間・風流伝書』 刊行。田口和夫(文教大学名誉教授)校訂。江戸初期に大蔵虎清がまとめた間狂言・風流の演出に関する伝書(法政大学鴻山文庫)の翻刻。風流15 曲・間狂言223 曲の装束付、囃子等について記したもの。他に虎清に関する資料三篇を付録として収める。
・能楽資料叢書 『金春安住集』 刊行。六麓会校訂、小林健二(国文学研究資料館教授)編。金春八左衛門安住の記した『御用留』・『歌舞後考録』(能楽研究所般若窟文庫蔵)の翻刻。江戸城等での演能の覚書や書上などの貴重な記録。
・能楽研究叢書 『野上豊一郎の能楽研究』 刊行。伊海孝充(法政大学教授)編。シンポジウム「生誕130 年 野上豊一郎の能楽研究を検証する」(2013 年度開催)の報告集。講演の記録、発表をもとにした論文等と、能楽研究所蔵の野上文庫蔵書目録・野上豊一郎著作目録を収める。
・論文「ラジオ放送と能楽―地方における能楽享受への影響を中心に―」佐藤和道『能と狂言』12
・論文「玉屋謡本の研究(一)―玉屋謡本諸本の関係をめぐって―」伊海孝充『能楽研究』38
◆2013年度研究報告
2013年度は特に、近代の能楽資料、金春家旧伝文書、謡本に関する研究を中心に進めました。
近代の能楽資料に基づく共同研究では、法政大学鴻山文庫蔵の近代能楽資料の整理・調査の成果に基づき、近代能楽史研究を牽引する学外の研究者を交えたセミナーを実施しました。あわせて、同文庫が所蔵する戦前の大連での演能や、宝生重英・喜多六平太・梅若萬三郎らの名人の舞台を記録した16ミリ映画のデジタル化を行いました。
金春家旧伝文書に関する基礎的研究では、能楽の家として最古の由緒を誇る金春家伝来の文書のうち、能楽研究所が所蔵する二千点を超える資料のデジタル化と目録の整備に向けた作業を行いました。
謡本に関する総合的研究では、本年度は江戸初期の玉屋謡本や、鈔写謡本の本文筆者に関する調査を行い、その成果を能楽学会の例会で報告しました。
◆2013年度 成果
・デジタルアーカイブ 「鴻山文庫蔵「能楽断片・名家の面影」」・「鴻山文庫蔵「宝生流大連演能」」 公開。昭和7~10年ころに撮影された貴重な能楽の上演フィルムを見ることができるアーカイブ。