テーマ設定型共同研究 活動報告
③ 能楽の演出・演技に関する研究
研究代表者:高桑いづみ・山中玲子
【研究概要】
「①能楽研究所所蔵資料の活用をめざした文献研究」と連携しつつ古演出資料の翻刻と公開を進め、東京文化財研究所、国立能楽堂、早稲田大学演劇博物館、神戸女子大学、能役者等との協力により、能の演技・演出やその用語が確定してきた過程をあきらかにします。
◆2018年度 研究活動
古演出資料の翻刻と公開を進めつつ、能の演技・演出が確定してきた過程やその特徴について多方面から追究しています。ロボット工学や音響工学等、多領域の研究者との共同研究も、本年度からは能の所作と音楽(囃子)に関する研究を本格的に開始しました。また、数年来続けてきた技芸伝承に関する研究成果は、一部を国際学会で発表する機会を得ました。
・ 脇方の型付として最古の部類に属する能楽研究所蔵『能之秘書』を、中司由起子、深澤希望、山中玲子の3 名で翻刻し、現在、ドラフト版のチェック中です。来年度以降、完成版に基づいて公開研究会を開催の予定です。
・ 大阪芸術大学の中川志信教授をリーダーとする学際共同研究。ロボット工学・音響学・動作解析等の研究者たちと協同で、能独特の重心や動作、音楽と動きとの関係などを分析・究明し、新しい視点でのロボットのデザインに向けて研究を進めています。8月8日・21日には代々木能舞台と矢来能楽堂舞台で実習及び能役者を交えての討議、11 月15 日には囃子方へのヒアリング、12 月8 日・9 日には研究会議を開催しました。
・ テルアビブ大学での国際研究集会(使用言語:英語)への招待を受け、本拠点からは、山中玲子「能の替演出―創意工夫と権威づけとの間で―」、横山太郎「臨機応変な演技が抑圧されていくプロセス(型を記述するメディアの発達と絡めて)」が参加し、Theatre Traditions in Transition のセクションで発表しました。
・ 一噌流笛方であった故島田巳久馬氏のご遺族から、笛の頭付、大小太鼓の手付、免状等を含む資料を御寄贈いただきました。なるべく早く整理・調査のうえ、仮目録を作成します。
◆2018年度 成果
論文「大瓶猩々「酒の湧き上がる壷の作リ物」作製の記録」野口隆行、『能楽研究』43
論文「能の囃子の成立過程」高桑いづみ、国立能楽堂開場35周年記念企画展図録『囃子方と楽器』、2019年1月
論文「囃子方諸流の成立と系譜」宮本圭造、国立能楽堂開場35周年記念企画展図録『囃子方と楽器』、2019年1月
◆2017年度 研究活動
古演出資料の調査に基づいた能の演技・演出の変遷の追求、スポーツ科学や文化人類学の手法により身体所作の習得・伝承のあり方を考える研究に加え、2017年度は、ロボット研究者との共同研究、狂言の復曲、アメリカの研究者による能の音楽分析への協力(資料と情報の提供)など、さらに多彩な活動を進めています。
・8月24日「わざ継承」に関わる研究:昨年度の実験映像と実験参加者の聞き取り調査の結果を分析。芸の伝承におけるコミュニケーション(どのように教えるとどう変わるか)、動作主の意識と実際の動きの関係等を考察しました。
・10月7日公開セミナーとワークショップ「狂言の笑い―昔と今一」を開催。鴻山文庫・能楽研究所蔵の狂言台本を元に、研究補助員の中司由起子が台本を作成、大蔵流狂言師大蔵教義他の協力を得て、狂言〈隠笠〉を復曲しました。類曲間における笑いのポイントの違いや歴史的な変遷についての成果は中司が論文化の準備中。
・10月28日 大阪芸術大学の中川志信教授をリーダーとする受託研究「日本の伝統芸能における技法やコンテンツを先端ロボット産業に活かすUXデザイン研究」のキックオフ会議開催。ロボット研究の他、音響学、VR、アニメ、能、文楽、心理学、仮面研究等、多領域の研究者・実演者による学際研究。
・2018年3月12日「以心伝心・以身伝身―「ワザを伝えるワザ」とは何か?―」シンポジウムを開催。関連展示「能付資料の世界―技芸伝承の軌跡をたどる―」は2018年2月20日~3月24日、法政大学ボアソナードタワー14階展示室にて。また2月28日・3月12日には大正時代の型付を用いたワークショップも開催。
◆2017年度 成果
・論文「演劇的フィクションの構造 : 能の語りをめぐって」横山太郎 『早稲田文学』18
・論文「近代能楽のわざと表現(1)~(4)」横山太郎 『観世』84-5~84-11
・論文「〈二人静〉―音阿弥の演出・元章の解釈―」山中玲子『観世』85-3
◆2016年度 研究活動
古演出資料の翻刻と公開を進めつつ、能の演技・演出が確定してきた過程を追求します。本年度は新たにスポーツ科学の手法を採り入れ、身体所作の習得・伝承に関する研究にも取り組みました。具体的な活動内容は以下の通り。
・2015年度までの公募研究「現代能楽における『型』継承の動態比較―比較演劇的視点から」(代表者:横山太郎)を引き継ぎ、新たにスポーツ科学における身体所作の計測と分析の技術を採り入れて、芸の伝承におけるコミュニケーション(どのように教えると進退動作はどう変わるか)、動作主の意識と実際の動きの関係等に関する実験(予備実験8月2日、本実験9月2日。ともに銕仙会能楽研修所舞台)をおこないました。
・『慶長十二年二見忠隆奥書戦国期囃子伝書』の解読に関する研究会を開催。
◆2016年度 成果
・論文「地拍子の古態―早歌からの継承―」高桑いづみ『能と狂言』14
・論文「『御世話筋秘曲』の解読と復元の記録」山中玲子『能楽研究』41
・論文「「御家石橋」の成立と相伝の経緯」宮本圭造 『能楽研究』41
◆2015年度 研究活動
2015年度は、特に古演出の「復元」についての調査・研究に取り組みました。具体的活動内容は以下の通り。
*江戸時代初期に紀州藩で工夫された「紀州獅子」の復元上演。和歌山城博物館リニューアル記念事業との共催。特に紀州獅子に特徴的な「乱序」の部分を中心に、各家に残る演出資料の調査・解読を進め、能楽師の協力も得つつ、研究打合せ・稽古・申し合わせを重ねて2 月25 日に上演・収録しました。収録映像は和歌山城博物館にて公開されます。
*日本演劇学会と拠点との共催でおこなった研究集会「古典劇の現代上演」において、「能の復元的上演の可能性―「能」を現代に蘇らせる手法」と題するパネル発表をおこないました。能の復元に利用できる資料についての総論(宮本)の後、各論として、『慶長十二年二見忠隆奥書戦国期囃子伝書』の小鼓譜解読の成果(高桑)、江戸時代初期『秋田城介型付』の記事だけに基づく復元(中司)、紀州獅子「乱序」の上演可能な復元(山中)について報告しました。来年度以降はこれらの研究成果を報告書にまとめていきますが、技法伝承に関する公募研究(代表:横山太郎)と一部合体しての報告書なども視野に入れています。
◆2015年度 成果
・能楽研究叢書『能楽の現在と未来』山中玲子編
・論文「どこまでが能だったのか?―歴史的に見た能の輪郭」横山太郎『能楽の現在と未来』
・論文「学生が作る新作能―演劇学の授業に能をどう組み込むか―」竹内晶子『能楽の現在と未来』
・論文「能と現代演劇の接点―『奇ッ怪 其ノ弐』と『地面と床』―」小田幸子『能楽の現在と未来』
・論文「「現代能楽集の作業―錬肉工房の挑戦 付、岡本章企画・演出の「現代能楽集」の連作一覧」岡本章『能楽の現在と未来』
・論文「金春流型付の展開―安照型付から重勝型付へ―」深澤希望『楽劇学』23
・論文「わざ継承の学を構想する―能楽の技法を中心とする学際的な研究のために―」横山太郎 『能楽研究』40
・論文「能の習事」と番組上の小字注記―「小書」という語の意味するところ―」山中玲子 『能楽研究』40
◆2014年度 研究活動
*東北大学附属図書館蔵『秋田城介型付』の研究成果を踏まえ、同書に基づき復元した江戸初期の型の実演を収録し、現行演出の映像と詳細に比較しつつ用語や記述方式等の問題点について考える研究集会「江戸初期筆「秋田城介型付」の復元:報告と討議」(11月24日。52名)をおこないました。
*昨年度実施した関口家小鼓伝書の調査結果等を踏まえ、研究所蔵山崎家旧蔵伝書及び小鼓胴を用いた研究講演と実演の催し「よみがえる鼓胴 ―山崎家伝来「錠図蔕梨」の音色を聴く―」を開催しました(2月27日。115名)。当日はロビーにて資料を展示ました。
*『慶長十二年二見忠隆奥書戦国期囃子伝書』(永禄頃の内容か)を解読する研究会を11回開催。研究成果の一つは学会発表が認められ、準備中。(6月~3月)
◆2014年度 成果
・能楽資料叢書『東北大学附属図書館蔵 秋田城介型付』刊行
・論文「《四季祝言》《敷島》の謡復元」高桑いづみ 『能と狂言』12
・論文「能の舞を記譜すること―観世元章の型付『秘事之舞』をめぐって―」横山太郎『観世元章の世界』
・論文「「師家」の型、「弟子」の型―『享保十四年清親奥書紺表紙謡本・土蜘蛛』型付書入れをめぐって―」深澤希望『観世元章の世界』
・論文「元章時代の小書とその演出意図―小書一覧表・『小書型付』翻刻―」山中玲子『観世元章の世界』
・論文「〈檀風〉「孝養」の習事―死者を悼む演技をめぐって―」山中玲子『文学』16-2
・論文「枕ノ段の型の研究―扇を投げる・衣を被く―」中司由起子『能楽研究』38
◆2013年度 研究活動
2013年度は2件の共同研究をおこないました。
・関口家小鼓伝書の調査
京都で活躍し、土佐藩お抱え役者でもあった小鼓方幸流の関口家の伝書を調査しました。小鼓の付を中心に五十点を越える資料が現在、幸流成田達志氏によって所蔵されています。写真撮影をし、目録を作成しました。今後は能楽研究所蔵の幸流、山崎家旧蔵伝書と比較研究をおこなう予定です。
・東北大学附属図書館蔵『秋田城介型付』の研究
近世初期の大名秋田城介実季の記した型付の翻刻と内容解釈の研究会を毎月催し、翻刻作業を完了しました。本年度分の翻刻は〈鵺・葵上・鵜飼・国栖・鍾馗・項羽・烏頭・藤戸・阿漕・猩々〉。次年度も研究会を継続し、①用語索引の作成、その実態を考察②型付全体の特徴の把握③城介の能への関わり方の考察をおこないます。
◆2013年度 成果
・論文Easy-To-Use Authoring System for Noh (Japanese Traditional) Dance Animation and its Evaluation, 尾下真樹・関健志・山中玲子・中司由起子・岩月正見, Springer “The Visual Computer” 29-10