能楽の技芸伝承プロセスの学際的研究──スポーツ科学と演劇学の観点から
【研究目的】
研究代表者:横山太郎(立教大学現代心理学部教授)
- 研究分担者:山中玲子(法政大学能楽研究所所長・教授)
- 林容市(法政大学文学部准教授)
- 中司由起子(法政大学能楽研究所兼任所員)
- 深澤希望(法政大学能楽研究所兼任所員)
- 研究協力者 田井健太郎(群馬大学共同教育学部准教授)
- 大島輝久(喜多流能楽師)
【2022年度 研究成果】
- 発表 横山太郎「近代能楽における家元制とわざの伝承」芸能史研究会、2022年12月3日、オンライン
昨年度実施した大島輝久氏(喜多流)へのインタビューを分析し、伝承プロセス研究の方法的知見を深めることができた。前回実験では玄人から素人への基礎的な技術教授の過程を研究したが、次の段階として、玄人から玄人への技術伝承を対象に、3Dモーションキャプチャーによる運動分析と指導コミュニケーションの談話分析をおこなう計画を立てた。成果報告会と同日の3月1日に実施予定。宝生流金井雄資氏が子息金井賢郎師に仕舞の稽古をおこなう過程を撮影する。実験成果の中間報告を目的に3月13日に公開研究会を開催する。本年に刊行予定だった成果報告の論集は、この実験の成果も含めることにして来年度に繰り越した。
【2021年度 研究成果】
- 論文「ハタラキ考──世阿弥以前の能における鬼の身体」横山太郎『ZEAMI 中世の芸術と文化』5号・2021年6月
- 講演「能の身体史──流動する伝承共同体と「能らしさ」の形成」横山太郎 第5回日本文化研究フォーラム(跡見学園女子大学大学院日本文化専攻)・2021年6月22日・於跡見学園女子大学
- 講演「能の型を再現・伝承するしくみ」山中玲子 日本ロボット学会 ネットワークを利用したロボットサービス研究専門委員会・2022年3月・オンライン
- フィールド調査レポート「観世三郎太氏稽古取材」横山太郎(指導・監修)・藏田篤;渡邉未來;寺門佳湖;高原明日香(執筆)ウェブサイト「立教大学映像身体学科芸能研究ゼミ」2021年6月8日公開
分担者による研究会を開催し、2016年におこなった実験の検証をふまえて、今次調査の計画を定めたうえで、研究協力者能楽師大島輝久氏をインタビュイーとして、現代の能楽における技芸伝承の実態・方法・原理について聞き取り調査をおこなった。この調査結果を分析し、「身体能力が高い」「勘が良い」といった俗に言われる事柄について学術的分節を進める端緒を得た。当初計画では年度末に論文を発表する予定だったが、来年度に論集をまとめる企画が持ち上がったため、そちらで発表することにした。
【研究目的】
世阿弥の時代から、次世代にわざを伝えることは能楽の至上命題であり続けた。しかし、「わざがうまく伝わる」とはそもそもどのようなことなのだろうか?本研究はこうした問題意識にもとづき、能の身体技芸(型)の伝承プロセスを研究する。
【研究の背景】
研究代表者は、これまで能楽研究所公募型共同研究(2014–15年度)「現代能楽における「型」継承の動態把握―比較演劇的視点から」において能の身体技芸伝承に関する理論的知見を深め、それに基づいて、研究分担者である山中が代表者を務めた「能楽及び能楽研究の国際的定位と新たな参照標準確立のための基盤研究」(科研B)内のプロジェクトでは、プロの能楽師が初心者に型を稽古する場面を実験的に調査した。後者では、師弟間の言語的・身体的コミュニケーションのビデオ資料、師弟双方の3Dのモーションキャプチャデータ、稽古後の聞き取り調査資料を得た。これらの資料を活用して、第20回能楽セミナー「シンポジウム 以心伝心・以身伝身―「ワザを伝えるワザ」とは何か?―」(法政大学、2018年)において研究発表をおこなったが、資料の一部を活用した成果にとどまっており、さらなる分析と理論的な解釈の余地が残っている。
【研究課題】
1)上記資料と、追加のインタビュー調査を分析し、技芸伝承がミクロのレベルでどのようにおこなわれているかを明らかにする。主要な視点は、(1)師弟間のインタラクション、(2)教え方と実際の動きのズレ、(3)動作をイメージさせる方法(わざ言語、誇張してやってみせる、図示、等)。分析と解釈にあたっては、スポーツ科学、エスノグラフィー、能楽演出史など複数のディシプリンを突き合わせる。
2)これまでの研究において、「型」とは、師匠の頭の中に固定的に存在していたものを弟子に教え込むようなものではなく、師弟間の双方向的なコミュニケーションのなかで動的に保存されていることがわかってきた。これをふまえ、歴史的な型付資料を再解釈し、伝承プロセスがどのように変化してきたのかを探求する。