謡曲の良さの評価とそれを規定する音響特徴の検討(2023年度より継続)
- 研究代表者:木谷俊介(北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科講師)
- 研究分担者:木谷哲也(シテ方宝生流能楽師)
- 研究協力者:宝生和英(シテ方宝生流宗家・能楽師)
- 研究協力者:西村聡(公立小松大学国際文化交流学部教授)
【研究目的】
・謡曲の良さの評価語の抽出
前年度に収録した謡曲を様々な表現語で評価する。幽玄の辞書的意味である奥深さや優美、その他、綺麗や透き通ったといった芸術表現を参考に評価語を抽出する。
・心理評価スケールの導出
上記で抽出した評価語を用いて心理スケールを導出する。絶対評価は難しいと考えられるので、謡曲の対を作成し、シェッフェの一対比較法を用いて、前年度に収録した音声内での相対評価とする。この実験は、聴取実験によって行い、実験参加者は素人と玄人とする。素人も玄人も良いと評価する普遍性と、玄人だからこそ分かる良さがあるのかどうかについて心理評価スケールを導出する。
・音響特徴と心理評価スケールの統合
最後に、前年度に実施した音響特徴と心理評価スケールを部分最小二乗回帰によって、どの音響特徴のどのような成分が心理評価と対応するのかを結び付ける。これによって、心理評価に対応する音響特徴が明らかになり、謡曲の良さを説明可能な音響特徴を示すことができる。
【2024年度 成果】
- 研究発表 木谷俊介, “音色表現語を用いた謡曲の音質感評価,” マルチメディア情報ハイディング・エンリッチメント研究会, 2025年3月6日, 沖縄県青年会館, 2025.
2024年度は、空間情報の変化による謡曲の評価の変化と、謡曲の評価に用いる評価語の検討を行った。
能舞台上で生成された謡曲は空間情報を持って鑑賞者の耳に届く。空間情報の変化によってどのように謡曲の知覚が変わるのかを明らかにするために、能舞台の中心にカメラとマイクを設置し、プロの能楽師による舞囃子を収録した。カメラは360°カメラを用いて、水平面全方位を録画した。マイクは、4 chマイクロホンを用いて、立体音響として収音した。収録したデータを信号処理によって視聴者が画面上で好きな方向に向くことができ、その向きに音が聴こえてくる環境を構築できた。今後は、このシステムを用いて空間情報によって謡曲の評価がどのように変わるのかを明らかにする聴取実験を行う。
謡曲を評価するには、様々な尺度がある。音響信号に結びついた評価を行えるようにするために、音色の研究に用いられてきた評価語を謡曲の評価にも適応可能かどうかを調べた。実験では、話者や収録場所が異なる謡曲やオペラを実験参加者に聴かせ、評価語ごとに当てはまりの程度を評価させた。評価語による評価に合わせて、実験参加者の好みを評価させることで、好みに対応する評価語がどのようなものであるかを調べた。実験結果を多次元尺度構成法によって曲ごとに分析した。