脇型付「能之秘書」の解読と注釈を通した能の様式化以前の演出の研究(2023年度より継続)
- 研究代表者:中司由起子(法政大学能楽研究所兼任所員)
- 研究分担者:岩崎雅彦(國學院大學文学部教授)
- 研究分担者:小田幸子(明治学院大学非常勤講師)
- 研究分担者:大日方寛(ワキ方下掛宝生流能楽師)
- 研究分担者:深澤希望(法政大学能楽研究所兼任所員)
- 研究分担者:山中玲子(法政大学能楽研究所教授)
【研究目的】
前年度に終えた作業調査をもとにして、現代語訳のまとめと表記の統一、抽出した用語の分析、現行演出や流儀間の違いなどの問題点の考察、能楽師への聞き取り調査をおこなう。
現代語訳は『能楽研究』または拠点サイトでの掲載を考えている。 公開の研究集会を開催し、分析や考察の結果を発表する。
【2024年度 成果】
- 発表 中司由起子「江戸時代初期のワキの演技―脇型付の記述から―」能楽学会世阿弥忌セミナー「能のワキ―技芸と歴史―」、2024年9月7日、興福寺会館)
- 論文 中司由起子「能の〔祈リ〕―〈安達原〉の型付を通して―」『能』798号、京都観世会、2024年11月
- 索引 中司由起子「『能之秘書』索引」『能楽研究』49号、法政大学能楽研究所、2025年3月
本研究は脇型付『能之秘書』(能楽研究所蔵)の資料的価値を明らかにし、現代とは異なるワキの演技の分析を通して、能演出が様式化する以前の様相を解明することを目的としている。
2023年度に『能之秘書』の全128曲分の翻刻、表記に関わる注、重複分の異同と、中司由起子「江戸時代初期のワキの演技―『能之秘書』の解題にかえて―」(横山太郎編『わざを伝える 能の技芸伝承の領域横断的研究』能楽研究叢書9、能楽研究所、2024年3月)を成果として発表した。翻刻の全文は、拠点サイト「研究資源」→「翻刻資料」にダウンロード可能な形でPDFとテキストデータを公開している。
これらをふまえ、本年度あらたに発表した主な成果は以下のとおりである。
(1)『能之秘書』索引 能楽研究所紀要『能楽研究』49号掲載(2025年3月予定)
・所作単元用語が少なく、シテ方の型付とは異なる。ワキの演技を示すために、「付く」「なおる」「言う」「かかる」「手・膝をつく」「髪を結う」等、一般的な動作を表す語が用いられる。用語化している例もある。
(2)口頭発表 中司由起子「江戸時代初期のワキの演技―脇型付の記述から―」、能楽学会世阿弥忌セミナー「能のワキ―技芸と歴史―」、2024年9月7日、興福寺会館
・〈三井寺〉の謡に則したワキ方の演技、〈海士〉の小書「変成男子」につながるような扇の扱い、〈楊貴妃〉におけるシテの役柄に基づいたワキの退場の仕方(シテを先立てて退場)を考察。シテ方の型付だけでは見えてこない、現代とは異なる演技を指摘した。『能と狂言』23号(2025年10月頃)に掲載予定。
研究会は本年度1回開催。118曲すべての現代語訳、用語の抽出、問題点の検討を終えた。今後は『能之秘書』を用いた作品・演出研究を進めるとともに、浅野家旧蔵京都観世会蔵「脇所作付」についての調査研究に取り組みたいと考えている。