「謡曲引歌索引」の整理と「謡曲歌枕索引」の構築(2026~2028年度)
- 研究代表者:中野顕正(鶴見大学文学部准教授)
- 研究分担者:浅井美峰(大阪大学大学院人文学研究科准教授)
- 研究分担者:川上一(国文学研究資料館研究部准教授)
- 研究協力者:沼田晴香(慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程)
【研究目的】
謡曲は、前時代・同時代に存在していた様々なジャンルの文芸や文化事象を縦横無尽に摂取することで成立している。従って、謡曲詞章を注釈的に読解分析し、その内容を適切に把握する上では、それらの様々な文芸や文化事象についての知識・知見を援用する必要がある。しかし、謡曲の前提となった諸文芸の中でも特に和歌・連歌研究の領域は、他分野の研究者に介在の余地を与えないほどに独自の体系が出来上がってしまっており、ジャンルを超えた室町期文芸同士の相互理解は従来難しいものであったと言わざるを得ない。かかる問題意識のもと、謡曲・和歌・連歌のそれぞれの研究者が互いに知識・知見を共有することにより、謡曲詞章のうち和歌・連歌方面に由来する表現の注釈的分析を行うための環境を整備することが、本研究の目的である。
上記の目的に基づき、本課題の代表者・分担者の三名は、既に2019年度共同研究「謡曲における和歌・連歌表現の用例データベース構築」(代表:川上一)、2020~21年度共同研究「和歌・連歌との比較を通した謡曲修辞技法の学際的研究」(代表:浅井美峰)、2022年度共同研究「世阿弥脇能を中心とした謡曲詞章の和歌・連歌的研究手法に基づく表現分析」(代表:中野顕正)、2023~24年度「「新纂謡曲引歌考」の作成と謡曲における歌枕摂取の研究」(同)、2025年度「「謡曲引歌索引」の整理拡充」(同)において研究を重ねてきた。本共同研究は、その成果を継承し、深化・発展させることを目指すものである。
これまでの共同研究の成果として、謡曲における引歌(先行注釈書等に指摘のある参考歌を含む)を網羅した「謡曲引歌索引」の暫定版データベースを、既に2025年3月に公開している。但しこのデータベースは、当面の措置として、概ね佐成謙太郎「謡曲引歌考」(『謡曲大観』首巻)に基づき、そこへ新潮日本古典集成『謡曲集』等に拠りながら部分修正を加えたものであり、底本の不統一、本文異同や他出状況の未調査など、修正すべき課題は多い。2025年3月に暫定版データベースとして仮公開に至ったのは、2024年度の成果報告書に記した通り、「完璧を期して徒らに成果データを死蔵してしまうよりは、不完全な形であってもまずは暫定版として仮公開し、研究の手がかりとして広く活用されることが望ましい」と考えたからである。
このデータベースについて、内容をより正確なものへと更新し、また現状の暫定版には含まれていない新たな情報(例えば歌人名、歌題など)を増補拡充することが、研究データをより有用なものとすることにつながる。かかる意図のもと、既に2025年度共同研究より、主として和歌に関するデータの整理・修正に着手し、【ア】典拠表示(勅撰集入集は機械的に勅撰集を典拠と認定する。但し『伊勢物語』所収歌のみは『勢語』を典拠とする)、【イ】和歌本文(上記アで認定した典拠に基づき、新編国歌大観を底本とする形で和歌本文を差し替える)、【ウ】歌番号(新編国歌大観番号を示す。但し『万葉集』のみ旧国歌大観番号を示す)、【エ】歌人名(本名で記す。名字不要、諱のみ。他出での異同は示さない)、【オ】他出、の諸点についてデータの整理・差し替えを進めてきた。2025年度は『古今集』から『詞花集』までの勅撰歌についての作業を完了させた(上代歌は後回しとした)が、本共同研究ではこの作業を継承し、残るデータについても差し替えをおこなう。
また、2025年度共同研究では、これと併行して、謡曲(特に道行謡)における歌枕利用例の網羅的整理に向けた準備作業を進めていた。具体的には、大谷篤藏編『謡曲二百五十番集索引』(解題・索引双刊6、赤尾照文堂、1978年)の中から地名を抽出・整理するという作業に取りかかった(未了)。本共同研究では、この作業を完了させた上で、ここに抽出した地名が歌枕として認定されるか否かを一つずつ検討し、『歌枕名寄』等の歌枕資料と紐付けるという作業をおこなう。
【研究計画】
2026年度は、2025年度共同研究に引き続き、「謡曲引歌索引」のうち和歌関係のデータにおいて、【ア】典拠表示(勅撰集入集は機械的に勅撰集を典拠と認定する。但し『伊勢物語』所収歌のみは『勢語』を典拠とする)、【イ】和歌本文(上記アで認定した典拠に基づき、新編国歌大観を底本とする形で和歌本文を差し替える)、【ウ】歌番号(新編国歌大観番号を示す。但し『万葉集』のみ旧国歌大観番号を示す)、【エ】歌人名(本名で記す。名字不要、諱のみ。他出での異同は示さない)、【オ】他出、の諸点についてデータの差し替えをおこなう。2025年度は『古今集』から『詞花集』までのデータ修正に留まっていたため、2026年度は残る全データについての差し替えを行う。
またこれと併行し、「謡曲歌枕索引」作成のための基礎作業となる、『謡曲二百五十番集索引』から地名を抽出・整理する作業を完了させる。
加えて、「謡曲引歌索引」に謡曲のメタデータを付与するための前提となる、現行曲全曲を対象とした段・小段分けの試案を作成する。(この作業は主として中野顕正がおこなう。)
