テーマ設定型共同研究 活動報告
④ 国際的視野に基づく新たな方法論構築のための能楽研究
研究代表者:山中玲子
【研究概要】
海外の能楽研究者との協力により英語版の能楽事典を編纂します。既存の能楽事典の英訳ではなく、海外の研究者にとって重要な情報を優先し最新の研究成果を盛り込んで国際研究の基準になる事典をめざします。能楽学会、能楽協会、国立能楽堂等とも連携し、用語の統一をはかります。
◆2018年度 研究活動
能楽研究のプラットフォームを構築し、能楽研究を国際的な研究分野として位置づけます。そのために、世界に向け最新の研究成果を発信するとともに、海外の研究者・実演者等とのネットワークを強化し、共同研究を進めていきます。本年度の成果は以下の通りです。
・ Noh Reimagined 2018(6 月29・30 日、於London, Kingsplace)に、山中玲子・宮本圭造の両名が参加。日英の脳科学、神経美学の研究者らとともに、夢幻能についてさまざまな立場から分析しました。夢幻能のしくみと演劇としての特徴についての講演(英語)、セミナー “Noh Mask, Noh Movement:Illusory Devices”での講師(英語通訳付き)を担当するほか、Wiebke Leister ロンドン芸術大学上級講師が進める人間の顔とマスクの関係についての研究にも協力しました。
・ 本年度も『英語版能楽全書』の出版に向けての研究および編集作業を続けています。6 月はプリンストン大学のトム・ヘア教授、7 月はハンブルク大学のアイケ・グロスマン准教授を招き、国内外の研究者のべ14 名が参集。英語表記や英語論文のスタイルに特化した編集会議と、新たに付け加える項目についての討議をおこないました。
・ 11 月18 ~ 21日、テルアビブ大学芸術学部演劇学科長ツヴィカ・セルペル教授主催の、日本伝統演劇と西洋の伝統演劇の比較をテーマとした国際研究集会“CREATION,PRESERVATION, AND TRANSFORMATION OF THEATRETRADITIONS: EAST AND WEST”に参加しました。
◆2018年度 成果
論文 “Mugen nô: Dreams, Memories and Recollections”YAMANAKA Reiko、『能楽研究』43
論文 “Time in noh theatre performance ant training”Diego Pellecchia, Time and Performer Training, 2019年2月
◆2017年度 研究活動
能楽研究のプラットフォームを構築し、能楽研究を国際的な研究分野として位置づけます。そのために、世界に向け最新の研究成果を発信するとともに、海外の研究者・実演者等とのネットワークを強化し、共同研究を進めていきます。2017年度の成果は以下の通りです。
・8月30日~9月2日EAJSの大会(ポルトガル、リスボン新大学)にてパネル発表:The world of Noh: three aspects of its socioeconomic structure(宮本圭造、山中玲子、ディエゴ・ぺレッキア)は興行形態・役者の育成・素人の役割等、Noh Texts as a Nexus: Their Multi一 layered Compositions and Beyond (伊海孝充、竹内晶子、横山太郎、玉村恭)は能のテキストの暖昧さや多重性についての発表をおこないました。これらの成果は英語版能楽全書に組み込まれます。大会会場で出版社とも面談、同書刊行に向けて動き出しました。
・10月18日大和スコラー2017に協力:イギリス人と日本人の学生に向け、上記パネル発表の成果を踏まえた講義と喜多流大島輝久氏の協力を得てワークショップをおこない、学生から有益なフィードバックを得ました。
・l1月24日 日本伝統芸能研究コンソーシアム(JARC)設立に向けての会議:スタンフォード大学、京都市立芸術大学、中世日本研究所、京都産業大学、東京文化財研究所、法政大学情報科学部、能楽研究所が参加し、具体的な活動内容や設立趣意書の文言について検討しました。
◆2017年度 成果
・論文 Noh Creativity? The role of amateurs in Japanese Noh theatre, Diego PELLECCHIA, Contemporary Theatre Review
◆2016年度 研究活動
最新の研究情報を発信し、全世界共通の能楽研究のプラットフォームを構築して、能楽研究を国際的な研究分野として位置づけていくとともに、海外の研究者・実演者等とのネットワークを強化していきます。2016年度の成果は以下の通り。
・7月28~30日、英語版能楽全書刊行に向けての国際研究集会を開催。国内外の能楽研究者14名が参加し、各セクションの進捗状況の報告、全体の構成案・項目の追加や入れ替え等に関する編集会議をおこないました。本年度は狂言部門にも強力な執筆者を迎え、年度末までにできる限り多くのドラフトを集めることを目標にしています。また2017年8月のEAJS大会に向けて二組のパネル発表を申し込み採択されました。
・7月27日。矢来能楽堂において、なごみ狂言会チェコと大蔵流狂言方茂山家の共演の催しをおこないました。
・9月26日、シンガポール国立大学イェール・NUSカレッジの学生・教員計22名に向けて、上記英語版能楽全書刊行プロジェクトの研究成果を合わせ、英語のレクチャー2本(山中、パトリック・シュウェマー)、学生とのディスカッション等をおこないました。
◆2016年度 成果
・論文 Noh and Greek Thagedy, Mae SMETHURST 『能楽研究』41
・「笑いは国境を越える」解説, ヒーブル・オンジェイ 『能楽研究』41
・論文 La conscience Qui relie un geste à l’ autre: lenô et le concept de ma, YAMANAKA Reiko, MA ET AIDA
◆2015年度 研究活動
2015年度の成果は以下の通り。
*7 月23 日・24 日に英語版能楽全書編纂のための国際研究集会を開催し、各グループで進めてきた項目選択や執筆した原稿等の成果を持ち寄ってそれぞれの問題点を議論、全体の構成や企画の段階で不足していたテーマ等についても話し合いました。メーリングリスト等を利用してドラフトを出し合い、3 月には国内にいる研究者のみの小規模な研究会も開催。来年度以降もこうした研究集会を重ね、英語版能楽全書の完成をめざしていきます。
*2014年度10 ~ 11 月に開催した連続セミナーの報告集『能楽の現在と未来』を刊行。セミナー当日は詳しく扱えなかった「英語能」に関する英語論文2 本、既存の事典等に収録されていない2006 年以降の新作能・新作狂言リスト、狂言の新作・普及に関する論考を新たに加えている。英語論文は、5 月に上演された英語能 Blue Moon Over Memphis および、9 月8 日に能楽学会例会との共催でおこなった研究集会「リチャード・エマート氏にきく―英語能の可能性―」(聞き手:マイケル・ワトソン)の内容も踏まえています。
◆2015年度 成果
・能楽研究叢書『能楽の現在と未来』 山中玲子編 刊行
・論文「世界の能を目指す―宇高通成と国際能楽研究会―」ディエゴ・ペレッキア 『能楽の現在と未来』
・論文 Blue Moons: Transformations of an English Noh Play, Michael WATSON 『能楽の現在と未来』
・論文 Background to Creating Blue Moon Over Memphis―The “Elvis” Noh, Richard EMMERT 『能楽の現在と未来』
◆2014年度 研究活動
・英語版能楽事典の編纂に向けて、テーマ別に作ったグループでそれぞれ原稿作成を進めました。作業のためのウェブサイト構築や進め方の相談(4月)、能楽師への聞き取り調査(7・8・1月)の他、各チームで作業中です(4~3月)。
・2013年度ロイヤル・ホロウェイ大学とオクスフォード大学でおこなった、能の表現様式に関する講演、ワークショップ、京劇やコンテンポラリーダンスとの比較等をまとめ、書き下ろし論文や資料を加えて、能楽研究叢書3“Expressions of the Invisible: a comparative study of noh and other theatrical traditions”として刊行しました(3月)。
・外国人や外国語による能や狂言、新作能、他ジャンルとのコラボレーション、能に基づくオペラ等、伝統的な能楽とその外側に広がっている領域との関係やグローバル化した現代における能のあり方について考える連続セミナー「能楽の現在と未来」を実施しました(10月19日・26日・11月10日。のべ250名)。
・EAJS 大会では、2)で触れたパネル発表のほか、古典文学セクションの基調講演「能―動く文学」をおこないました(8月)。また、哲学・建築学・文学・芸能・日本語教育等、多様なジャンルの研究者を集めての国際学会「『間(ま)』と『間(あいだ)』―日本文化・思想の可能性」(3月:ストラスブール大学・アルザス欧州日本学研究所共催)にて発表「所作と所作をつなぐ意識―能楽と「間」」をおこないました。
・チュラーロンコーン大学シリモンポーン・スリヤウォンパイサーン教授による大学院生向けの特別講演会「謡曲における親子表現」を開催(15名。5月)。
◆2014年度 成果
・能楽研究叢書 “EXPRESSIONS OF THE INVISIBLE: a comparative study of noh and other theatrical traditions” Edited by Michael Watson and Reiko Yamanaka 刊行
・Report: Royal Holloway, University of London: Demonstration and Round table, Michael Watson and Ashley Thorpe, “EXPRESSIONS OF THE INVISIBLE”
・Study: Observations on the importance of the yao/koshi[腰]to the actor in Japanese nō and Chinese Jingju (‘Beijing opera’), Ashley Thorpe, “EXPRESSIONS OF THE INVISIBLE”
・Presentation: Expressive style in Noh: monologue, memory and movement, Reiko YAMANAKA, “EXPRESSIONS OF THE INVISIBLE”
・Short Essay: ‘Verging in the magical’: Noh and contemporary dance meeting in dialogue, Cecilia Macfarlane and Sarah Whatley, “EXPRESSIONS OF THE INVISIBLE”
・ Report: workshop in Oxford: Round table, Michael Watson, “EXPRESSIONS OF THE INVISIBLE”
◆2013年度 研究活動
・英語版能楽事典
既存の能楽事典を英訳するのではなく、海外の研究者にとって重要な情報を優先し、最新の研究成果を盛り込んで国際研究の基準になる事典を編纂します。編集方針を検討する研究会を日本だけでなく海外(アメリカ:プリンストン大学、ロンドン)でも開催し、事典の対象者、掲載項目等について議論を重ねました。画像・動画等、ウェブサイトの利用に関しては、コーネル大学GloPAC (Global Performing Arts Consortium) との協力体制を確認しました。
2014年度は日本人研究者と海外の研究者が共同で原稿作成を進め、その過程で見えてきた視点の違いや興味の方向、何を重要と判断するかという学問的価値観の違い等の情報を集積していきます。
・イギリス、ロイヤルホロウェイ大学・オックスフォード大学にて能ワークショップと講演を開催
能楽シテ方観世流馬野正基氏と山中迓晶氏の指導によるワークショップをロイヤルホロウェイ大学の演劇学科の学生を対象におこない、さらにオックスフォード大学にて、山中玲子の講演、装束付けの実演、能とコンテンポラリーダンスとの比較実演等を開催しました。
◆2013年度 成果
・能楽研究叢書 “ZEAMI: SIX REVIVED BANGAI PLAYS” Royall Tyler
・能楽研究叢書『ギリシア悲劇と能における「劇展開」―アリストテレースを手引きに、そして彼を超えて―』メイ・スメサースト(著)、渡辺浩司・木曽明子(訳) 刊行。
スメサースト氏著の“Dramatic Action in Greek Tragedy and Noh:Reading with and beyond Aristotle”の日本語訳。