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野上記念法政大学能楽研究所 能楽の国際・学際的研究拠点

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野上記念法政大学能楽研究所
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
TEL 03 (3264) 9815 FAX 03 (3264) 9607
© The Nogami Memorial Noh Theatre Research Institute of Hosei University. All Rights Reserved.

間狂言資料集成の作成とアイ語りを視点とする夢幻能の再検討

研究代表者  西村聡(公立小松大学国際文化交流学部教授)
研究分担者 小田幸子(日本大学非常勤講師)
岩崎雅彦(國學院大學非常勤講師)
伊海孝充(法政大学文学部教授)
研究協力者 井上愛(明星大学非常勤講師)
鵜澤瑞希(国文学研究資料館 プロジェクト研究員)
倉持長子(聖心女子大学非常勤講師)
黒沼歩未(東京国立博物館)
小室有利子(法政大学能楽研究所兼任所員)
富山隆広(法政大学大学院学生)
深澤希望(法政大学能楽研究所兼任所員)
李蘇洋(法政大学大学院学生)

【2020年度 成果】リンクから見ることができます。
「間狂言資料集成(暫定版)上」

  • 翻刻解題 「升形本『あい之本』の翻刻と解題」小田幸子・井上愛『能楽研究』45号、2021年3月
  • 論文 「《叫べど声が、出でばこそ》―「鵜飼」「砧」と『六道講式』―」岩崎雅彦『銕仙』702号、2020年6月
  • 論文 「〈嵐山〉間狂言再考」富山隆広『能と狂言』18号、2021年3月

【2020年度 研究活動】
2017年度から4年にわたって、「間狂言資料集成」に収める資料の翻刻作業を続けてきた。最終年度の本年度は、対象としてきた資料の内、升形本『あい之本』の翻刻が完成したので、担当した小田幸子・井上愛の共著で、凡例・解題を加えて能楽研究所紀要『能楽研究』第45号(2021年3月)に投稿し、掲載される予定である。また、その他の資料についても、翻刻作業が終了した分から能楽研究所のホームページ上に公開する予定であり、鴻山文庫本『鷺流間狂言付』と能楽研究所本『鷺流狂言型附遺形書』の2点を年度内に公開し、水野文庫本『鷺流間の本』、鴻山文庫本『和泉流間習分』、能楽研究所本『和泉流間狂言伝書』の3点は次年度の公開となる。翻刻作業は大方終了しているが、資料によっては判読の困難な部分や文字の誤脱箇所が少なくない上、記号・図示などの処理に技術的な制約もあり、web公開版では振り仮名部分も含め種々省略せざるを得なかった。将来的には間狂言資料集成としての冊子化が望ましいと考えている。
従来利用が容易ではなかったこれらの資料を読みやすい形に翻刻し、解題に基礎的情報を盛り込むことで、当該資料の全体が見渡せることになり、間狂言本文及び演出の変遷や流儀・家による違いが解明されるだけでなく、能の作品研究にとっても有益である。また、『鷺流狂言型附遺形書』は間狂言部分と本狂言部分から成り、本狂言部分には本書にしか本文・型付の伝わらない稀曲を多く記載するので、今後は本狂言の研究にも活用されることが見込まれる。
研究会ではこれらの翻刻作業の進捗状況や凡例・解題案を報告し合うとともに、資料研究や間狂言から見た能の作品研究の成果を以下のとおり発表・討議し合い、その一部は論文の形で公表している。研究課題期間は2020年度末に終了するが、研究会は今後も年3回程度、定期的開催を続け、翻刻資料全体を活用した共同研究に発展させてゆくことを申し合わせている。

【2019年度 成果】

  • 論文「アイの語りの分際(下)-後シテの語りと比較して-」西村聡『金沢大学歴史言語文化学系論集言語・文学篇』第12号,2020年3月
  • 論文「磁石の正体-鉄を食う怪獣-」岩崎雅彦『銕仙』第693号,2019年6月
  • 研究発表「能の地謡と結末の現在-観阿弥・世阿弥時代の作品を主として-」西村聡 金沢大学国語国文学会大会(2019年10月5日)
  • 研究発表「〈嵐山〉間狂言考-能を補完する間狂言-」富山隆広 第18回能楽学会大会(法政大学、2019年10月19日)

【2019年度 研究活動】
例年,3回の研究会を開催し,間狂言資料集成を作成するための打ち合わせと,資料研究又は作品研究に関する研究発表を行っている。今年度は2019年9月13日に第1回研究会,12月26日に第2回研究会を開催した。2020年3月5日に開催を予定していた第3回研究会は新型コロナウイルスによる感染症拡大を考慮して中止せざるを得なかった。予定していた研究発表は次年度に機会を探ることとし,資料の翻刻は各自作業を進め,メール等で情報を共有することとした。今年度全体としては,間狂言資料集成の作成に関しては,水野文庫蔵鷺流『間の本』担当グループにおいて,各自分担部分の翻刻を進めつつ,研究会では凡例案の検討を行い,増訂を重ねている。また鷺流『遺形書』担当グループにおいて,昨年度までに間狂言部分の翻刻を進めてきているので,今年度は資料として一体化している本狂言部分の翻刻を進めながら,凡例案の検討・増訂を重ねている。両資料及び過年度翻刻分の資料と合わせて,2020年9月の研究会までに,間狂言資料集成としての原稿をまとめることをめざすこととした。研究発表は研究会各回で以下の発表があり,参加者で討議して認識を新たにした。
《第1回研究会》
・深澤希望「『遺形書』の系統を探る-「半銭」の場合-」:『遺形書』所収の「半銭」を例に,同書が鷺流の仁右衛門派の演出を伝えることを論証した。閻魔王が亡者の生前の行いを吟味する際,伝右衛門派の諸本では禅僧輪蔵主を先,仁右衛門派の諸本では馬喰沓右衛門を先とする。『遺形書』では馬喰を先とすることから仁右衛門派と見なされる。所収曲がすべて仁右衛門派か,それとも両派の演出が混在するかを,他の曲でも確認する必要があり,野上文庫蔵『鷺流狂言秘伝書』(伝右衛門派)と共通する所収曲(5曲)で検討を行うこととした。
・西村聡「アイが推量する前シテの正体-貞享松井本の語彙による再検討-」:過年度はアイの語りとシテの語りを比較して,前者が後者の水準を超えないことに意味を見いだした。本発表ではアイとワキの問答部分に注目して,たとえば夢幻能の通説では前シテは「何某の化身」と説明されるが,アイは前シテを「何某」「何某の亡心」「何某の幽霊」と推量し,前シテ自身は「幽霊」を名乗ることが多く,ワキはアイの推量を聞きながら前シテの名乗りを信用するなど,アイ・ワキ・シテの三者の位置の異なりを作品ごとに把握してゆくことで夢幻能の定義が更新できるであろうとした。
《第2回研究会》
・富山隆広「脇能のシテ移動と末社アイ」:末社アイの成立を〈紅葉狩〉からとする通説に対して,脇能に登場するシテが,能作史の流れの中で,末社の神から本神へと推移するのに伴い,末社の神はシテからアイへと役割を変えて行ったのではないかと考え,〈松尾〉〈賀茂〉を例に検討した。

【研究目的】
これまで能の作品研究に利用されてきた間狂言資料は、翻刻や影印が公刊されている大蔵流の資料に偏る傾向がある。鷺流や和泉流の資料を広く視野に入れて、諸流の相違や変遷を把握することが必要でありながら、そこまでの準備をして能の作品研究に活用することは容易でなかった。さらに、間狂言で語られる内容はシテの語りを要約・再説するという見方を大きく出ない理解にとどまることが少なくない。しかし、当事者(シテ)と第三者(アイ)の語りにはそれぞれの立場の違いが反映して当然であり、その違いが能の作品構成にどう活かされているかを分析することで、特に夢幻能各作品の理解や評価は更新してゆけるであろう。このような問題意識のもと、法政大学能楽研究所所蔵の資料の内、特に鷺流や和泉流の未翻刻資料を集成し、広く能楽研究者及び一般愛好者に紹介・提供するとともに、アイ語りを視点とする夢幻能の再検討を具体的な作品研究の形で集積することが目的である。

【研究計画・成果公開の方法】
本研究は2017~2018年度に実施してきた依頼型共同研究「間狂言資料集成の作成とアイ語りを視点とする夢幻能の再検討」を継続・発展させるものとして申請する。2017年度は法政大学能楽研究所所蔵資料の内、①鴻山文庫蔵升形本「あい之本」2冊72番、②同「鷺流間狂言付」2冊124番、③能楽研究所蔵「鷺流間狂言型附遺形書」6冊224番、④同「和泉流間狂言伝書」2冊136番、⑤鴻山文庫蔵「和泉流間習分」1冊10番の撮影・翻刻を行い、2018年度は翻刻作業を続け、併せて⑥水野文庫蔵「鷺流間の本」5冊243番及び⑦前掲「遺形書」本狂言分の撮影を行った。
2019年度
前年度までに撮影・翻刻を終えた①~⑤までの資料については難読部分の解消に努めるとともに凡例・解題原稿を完成に近づける。また撮影が2018年度になった⑥⑦の資料についてはすでに研究分担者・研究協力者に配布し、翻刻作業の分担を決めて作業を開始している。⑥⑦の資料はともに分量が多いことから2019年度は翻刻の完成が最大の達成目標となる。翻刻を進めながら気がついた問題点を間狂言共同研究会に持ち寄り、年度内に3回研究発表会を開催する。資料に部分的に引用された本文の系統や特徴のある演出のほか、資料の成立時期を推定する根拠となる記述や演能記録の断片など、資料自体の価値や特徴を見直す手掛かり、能楽史記述を補正する事実の発見が期待される。翻刻や影印が公刊されている資料との比較はもちろん必要であるが、まずは今回の翻刻資料を対象として、これらの収穫をできるだけ増やすことを優先する。
能の作品研究、特に夢幻能の再検討への活用については、各回の研究会でも具体例による分析を続けてゆく。研究代表者の西村は2018年度の研究成果として論文「アイの語りの分際(上)―前シテの語りと比較して―」(『金沢大学歴史言語文化学系論集言語・文学篇』第11号、2019年3月)を発表したが、その続編「アイの語りの分際(下)―後シテの語りと比較して―」(同上12号)の執筆を予定しているほか、アイが前場の出来事を独白する立チシャベリの型や、ワキから前シテのことを聞いたアイがシテの正体を推量する時にどういう言葉を使用するか、またその推量がシテの名乗りとどういう対応関係にあるかを体系的に考察する予定である。研究分担者・研究協力者とともに各回の研究会で考察の結果を検討してゆく。
2020年度
年間3回開催の研究会を継続し、翻刻グループごとに翻刻・凡例・解題の完成と点検を行う。予算的に可能であれば、能楽資料叢書の1冊として間狂言資料集成の書名で冊子化する。この1冊に追加すべき資料がないか、絶えず情報収集を行い、可能な範囲で追加する。この冊子によって資料研究の成果を公開する。また、アイ語りを視点とする夢幻能の再検討については、研究代表者・分担者・協力者が研究会で発表するとともに論文化を進め、資料を活用した作品研究の成果を随時、論文の形で公開してゆく。

 

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