能楽演目とポップカルチャーとの相互影響に関する研究
- 研究代表者:植朗子(神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート(Promis)協力研究員)
- 研究分担者:マガリ・ビューニュ(帝京大学外国語学部国際日本学科講師)
- 研究分担者:鈴村裕輔(名城大学外国語学部准教授)
【2023年度 研究成果】
- 論文(書籍・共著)①:植朗子「『鬼滅の刃』における「鬼」たちの魔術的力―鬼の始祖・鬼舞辻無惨と血と病のモティーフ―」(斎藤英喜編『文学と魔術の饗宴』小鳥遊書房、2024年春刊行予定、所収)
- 論文(書籍・共著)②:植朗子「「聖剣」として継承される日輪刀――『鬼滅の刃』継国縁壱、竈門炭治郎、刀鍛冶をめぐる物語」(植朗子編『なぜ少年は聖剣を手にし、死神は歌い踊るのか』文学通信、2024年夏刊行予定、所収)
- 公開セミナー:植朗子「人の世で「鬼」の姿を目撃すること――能狂言『鬼滅の刃』の世界」法政大学能楽セミナー「アニメと能楽」、法政大学市ヶ谷キャンパス「スカイホール」、2024年3月3日
- 研究発表 マガリ・ビューニュ Journée d’études “Imaginaires et représentations des féminités dans le nô” | Université d’Orléans (univ-orleans.fr)
- Yusuke Suzumura, Views of Life and Death in Noh and Kyogen Demon Slayer: Utilization and Transformation of Traditional Concepts in a New Play (tentative title). Meijo University journal of the Faculty of Foreign Studies, Vol. 8, scheduled date of publishing: March 2025.
(1)植朗子
◆論文(書籍・共著)①
マンガ原作とアニメ『鬼滅の刃』の鬼の魔術的な力「血鬼術」(けっきじゅつ)の定義、設定を整理し、文学作品における「鬼」「悪魔」「吸血鬼」の表象の違いについて明らかにした。能狂言『鬼滅の刃』ではとくに鬼舞辻無惨の設定が、原作と異なる部分が多く見られ、その演出と設定についても言及しながら、能狂言の表現についても論じた。
◆論文(書籍・共著)②
神話的アイテムである「聖剣」について論じ、「ヒノカミ神楽」と呼ばれる神舞と日輪刀の関係について明らかにした。能狂言『鬼滅の刃』では刀鍛冶と神楽の神話性を演出した場面があり、能で使用する面との関係についても述べている。
◆公開セミナー(※論文①②の内容と関連する)
鬼二体(鬼舞辻無惨、累)の登場シーンに関する演出の違いについて論じ、「鬼滅の鬼」とは何か、原作と能狂言での相違点について発表する。※今後、開催予定のため、発表内容のみを記した。
(2)マガリ・ビューニュ
◆研究ノート(紀要)①
2022年から2023年にかけて上演された「能狂言 鬼滅の刃」という新作演目が、能の劇場の特異性を巧みに操りつつ、現代の観客の想像力を活発化させるものであった。本研究ノートは、その方法について分析しようとする試みに基づく。公演の観察に基づき、木ノ下裕一と野村萬斎によって創作されたテキストと台本の分析を通じて、役者や脚本家が「鬼滅の刃」の世界観を能に適応させるために使用した多くの工夫に触れた初めてのものである。
◆学会発表:(※研究ノート①の内容と関連する)
オルレアン大学、REMELICE研究所、日仏会館(MFJ)の共催で、フランス文化省の助成を受けた「能楽の動き――視覚化から視覚化までの女性像と表現」プロジェクト(Le théâtre nô en mouvement – Imaginaires et representations des féminités dans le nô, 以下A参照)の一環として、能楽に関する研究会が開催された。演出家であるラファエル・トラノ先生と共同で、能狂言『鬼滅の刃』での女性像の役柄を含め、能楽における女性像について講演した。(以下B参照)
この研究会の成果は、2025年に発行されるEbisu誌第62号に掲載される、このテーマに関する論文の基盤として活用される。
A : Résultats de l’édition 2023-2024 de l’appel à projets Recherche en théâtre, cirque, marionnette, arts de la rue, conte, mime et arts du geste (culture.gouv.fr)
B : Journée d’études “Imaginaires et représentations des féminités dans le nô” | Université d’Orléans (univ-orleans.fr)
(3)鈴村裕輔
◆論文(書籍・共著)①:能狂言『鬼滅の刃』について、「死すべき人間」と「ほとんど不死の鬼」という原作漫画の構図が作品の中にどのように活かされているかに焦点を当て、特に伝統的な能楽作品の死生観の応用と変容のあり方を検討する。
【研究目的】
本研究では「能 狂言『鬼滅の刃』」を研究対象とし、この作品における①古典演目からの影響関係の解明と、②新しく取り入れられたポップカルチャー要素の分析をおこなう。2022年に上演された「能 狂言『鬼滅の刃』」に対する評価の高さは、原作であるマンガ『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴、集英社、2016-2020)のブームに単純に依拠しているだけではなかった。能楽固有の表現が、『鬼滅の刃』における異形たちの悲哀をすくい上げ、新たな視点をもたらすのだということを、ふだん能に触れることが少ない層にも知らしめるものだった。
この共同研究では「能 狂言『鬼滅の刃』」を研究対象とし、台本制作者である木ノ下裕一、演出担当の野村萬斎、さらには能役者たちが、『鬼滅の刃』の世界観を能楽に翻案するために用いた技法に焦点をあて、伝統的な能楽の演目と比較し、共通点・妥協点・革新性という3つの角度から分析する。そして、マンガというメディアを典拠とする「新作能」の可能性を探求することを目的とする。本研究では3名の研究者が、以下の視点から「能 狂言『鬼滅の刃』」の分析を行う。
①植朗子担当内容(吾峠呼世晴の原作と木ノ下裕一の補綴との比較、テクスト分析)
*セリフ(マンガ原作)から謡(能狂言)のテクスト分析―神話的要素「呼吸」「柱」、人間的要素「情」「恐怖」「悲哀」を手がかりに
・「能 狂言『鬼滅の刃』」における鬼殺の技「呼吸」の神話的表現
・『鬼滅の刃』〈人の悲しさ、鬼の虚しさ〉―マンガから能狂言に受け継がれる「悲しみ」の変化
②マガリ・ビューニュ担当内容(木ノ下裕一による補綴の分析)
*伝統と新奇性の間の「妥協」の形を分析する(新作能が伝統的な能の構造を守りながらもそれに加えた修正点の検討)
・修羅能『藤襲山』における謡曲「屋島」「勝修羅」/切能『累』における謡曲「黒塚(安達原)」・「土蜘蛛」・「大江山」から受けた影響の解明(現行演目と新作能との密接な関係を明らかにする。)
・雑能物『君がため』における和歌の引用/鬘物『白雪』における子守歌の使用の検討
③鈴村裕輔 担当内容(伝統文化とポップカルチャーの「浸透」と「融合」の接点)
*「憂き世」が「浮き世」へと変化した中世から近世の思想的・文化的背景及び伝統文化のポップカルチャーへの「翻訳」
・『狭霧童子』『藤襲山』『累』における人間の絆と「死」
・「生きたい 生きたい 死にたくはなし」―能狂言世界にあらわれた“新しい”鬼舞辻無惨像