謡曲の良さの評価とそれを規定する音響特徴の検討
- 研究代表者:木谷俊介(北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科講師)
- 研究分担者:木谷哲也(シテ方宝生流能楽師)
- 研究協力者:宝生和英(シテ方宝生流宗家・能楽師)
- 研究協力者:西村聡(公立小松大学国際文化交流学部教授
【研究目的】
本研究の目的は、謡曲の良さを説明可能な音響特徴を明らかにすることである。能楽の良さを表現する言葉の 一つに「幽玄」がある。幽玄の辞書の意味は、奥深さや優美さであるが、それらが正しく能楽の良さを表現できているかは定かではない。また、能楽の何が幽玄(あるいは奥深さや優美さ)を鑑賞者に感じさせているのかは 明らかになっていない。本研究では、能楽を構成する様々な要素のうち、謡曲に着目し、謡曲の良さがどのよう な表現語によって評価可能なのかを明らかにする。さらに、その表現語を規定する物理特徴を明らかにする。 世阿弥は花鏡(1424)の中で「能では幽玄であることが第一に大事である」としている。ただし、幽玄がどのようなものであるかの研究はされているものの、実際の能楽鑑賞によって幽玄がどのように感じられているのか は明らかになっていない。能楽の指導者達も幽玄であるかどうかを指導の軸にはおいていないようである。しか し、幽玄という言葉を使わなくとも、良い謡曲となるように指導を行っており、この良さを言語化できれば、謡 曲における幽玄がなんであるのかを示すことや、良い謡曲の指導方法への応用が可能となると考えられる。 申請者は、先の 2 年間で本共同研究助成によって、謡曲の収録とスペクトル・時間変調分析による謡曲の音響 特徴を明らかにしてきた。話声や熟練度の違いによる謡曲のスペクトル変調、時間変調の特徴を明らかにすることができた。一方で、その特徴が謡曲の良さとどのように繋がっているかは未解明のままである。本研究では、 謡曲のスペクトル変調情報および時間変調情報と謡曲の良さの評価を結びつけることによって、謡曲の良さを説 明可能な音響特徴を明らかにする。謡曲の良さは、複数の評価語を用意し、各評価語の心理スケールを作成し、 それらの相関をみることによって評価する。その心理スケールと各音響特徴を部分最小二乗回帰によって結び付 けることによって、謡曲の良さを規定する音響特徴を明確にする。