鷺流狂言宝暦名女川本(能研本)の総合的研究
- 研究代表者:永井猛(米子工業高等専門学校名誉教授)
- 研究分担者:稲田秀雄(山口県立大学名誉教授)
- 伊海孝充(法政大学文学部教授)
【研究目的】
宝暦名女川本は、1761(宝暦11)年頃、鷺流分家の鷺伝右衛門家の高弟・名女川辰三郎(?-1777)によって書写された全20冊程度の狂言台本である。曲数のまとまった台本としては、伝右衛門派最古の享保保教本と幕末の常磐松文庫本の中間に位置する。
これまで全20冊程度のうち、檜書店蔵の7冊(檜本と略称)が知られていたが、2018年に所在不明だった笹野堅氏旧蔵の7冊が発見され、能楽研究所の所蔵となった。2019年度に公募型共同研究の採択を受けて「新出・鷺流狂言『宝暦名女川本』の離れ(笹野本)についての基礎研究」として、この新出の7冊の調査と概要紹介をした。7冊の内、本狂言2冊「盗類雑」「遠雑類」と本狂言秘伝集1冊「本書綴外物」も『能楽研究』44号(2019年)、45号(2020年)に翻刻紹介することが出来た。当初は、旧蔵者の名に因んで「笹野本」と呼んでいたが、能楽研究所に所蔵されたのを機に「能研本」と略称している。
2021年度からは、「新出・宝暦名女川本(能研本)の総合的研究」と題して、能研本の資料的価値を他台本・他流派との比較など、より広い視野から総合的に検討を加えてみた。能研本には、徳川綱吉・家宣時代の稀曲上演の影響があること、曲によっては古い演出をとどめていることなどが分かってきた。また、間狂言4冊の内の「脇末鱗」「語立雑」の2冊を『能楽研究』46・47号(2021・2022年)に翻刻紹介出来た。
本研究は、これまでの成果をふまえて、未翻刻の「遠応立」と「真替間」の2冊の間狂言台本の翻刻を通して、稀曲上演の実態、古演出の具体例を明らかにしていければと思っている。間狂言研究については、基本となる台本の資料的な位置付けが十分でなく、系統的な整理も進んでいない。流派ごとの主要な間狂言台本の整理をして、宝暦名女川本の資料的な位置付けを図りたい。間狂言ばかりでなく、本狂言も含めた宝暦名女川本全体の資料的な価値を明らかにしていきたい。