能楽を中心とする伝統芸能の振りの遡りとサービスロボットヘの活用
- 研究代表者:成田雅彦(東京都立産業技術大学院大学名誉教授)
- 研究分担者:中川幸子(青山学院大学情報メディアセンター助教)
- 研究協力者:鈴木昭二(ロボットサービスイニシアティブ(RSi)代表)
- 研究協力者:山中玲子(法政大学能楽研究所教授)
【2023年度 研究成果】
- [1] 成田雅彦,林久志,”伝統舞台芸術の振りの分析とサービスロボット向けプラットフォーム構想”,Vol.17 pp.42-47東京都立産業技術大学院大学紀要,2024(予定)
- [2] Masahiko Narita,Sachiko Nakagawa,Yasufumi Takama,“Proposal on a choreographic systematization for Service Robots with Referencing Noh and Ningyo Joruri,Traditional Japanese Performing arts”, Proceedings of 15th IIAI International Congress on Advanced Applied Informatics December 11-13,2023, Bali,Indonesia,IIAI International Congress on Advanced Applied Informatics,2023 (予稿集は公開予定). 発表はESKM4 December 13,2023.
- [3] 成田雅彦,中川幸子,高間 康史, ”能楽を中心とする伝統芸能の振りをサービスロボットへ活用する研究ストーリ”, RSJ2023AC3C3-01, 第41回日本ロボット学会学術講演会,仙台, 2023/9/11-14
- [4] 中川幸子,高間康史,丸山広,成田雅彦,”能の型付資料にもとづくサービスロボットの 振舞い獲得のための一考察”,RSJ2023AC3C3-02,第41回日本ロボット学会学術講演会, 仙台,2023/9/11-14
- [5] 中川幸子, 丸山広,高間康史,成田雅彦,“能の型付資料にもとづくサービスロボットの振舞い獲得の試み”,日本ロボット学会ネットワークを利用したロボットサービス研究専門委員会(電子情報通信学会クラウドネットワークロボット研究会と共催),札幌,2023/8/9
- [6] 成田雅彦,“伝統舞台芸術を参考にしたロボットの振りのプラットフォームの構想”,3G3-03,第24回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(SI2023),2023/12/14-12/16
• 目標
本研究の背景となる狙いは,サービスロボットの身体性を活かし,人と相互にメッセージをやりとりする最適な動作やしぐさの実現を目指し,日本の伝統的な舞台芸術の蓄積や知見をロボットで活用する手法を明らかにし,活用できる形態に再構築することである.本研究の目標は申請時,「能楽が他分野へどのように影響を与えたか,どのように影響を受けたかを振りのレベルで明らかにし,わざ・振りの起源を遡る.結果,この過程で得られる能楽による振りの意味情報や良質な振りのロボット分野向けの再構築を試みる」としていた.しかし,古い振りを扱うのは現実的でなく,資料の整った現在の振りを中心とすべきとの山中玲子先生の助言により,「現在の能の振りをベースに,多様な振りと意味情報を用いて,良質な所作をロボット分野向けに再構築を試みる」と変更した.
本年度では能に於いて多様性の元になる概念のいくつかを抽出し検証した.また,能の所作をロボットに実装し効果を検証した.
• 能の振りの多様性,意味情報に関連した所作
多様性の要素として,所作パターンや所作の遷移,移動や速度などに加え,詞章と所作の結びつきの有無として「詞章の所作と舞の所作」の概念を導入した.これらを組み合わせて動画や型付けに基づいて比較・分類すると,著名な演目である井筒,羽衣,熊野,二人静の違いを明らかに区別できるほどに有用であることを示した.一方,「詞章の所作と舞の所作」の概念は,能から人形浄瑠璃まで連続的に適用できる可能性を検証した[1-5](番号は前述の論文リストのもの).
• ロボット分野向け再構築
再構築の第一歩として能の所作をサービスロボットに適用したとき一般に受け入れられるか, また個々の所作単元はどう受けとられるかを検証した.具体的には,集客を中心とした場面でロボットの振る舞いに対する訪問客の動きを測定し集客効果検証した.同時に,シカケ,ヒラキなど基本的な所作単元毎の反応や,ハコビに相当する回転,ミルに相当する頭の上下との組み合わせの効果を測定した.実際,高さ24cmほどの14自由度のロボットSHIZUKA(図1)を作成,所作を2倍の演技速度で実装し,東京ビッグサイトで開催された国際ロボット展2023(来訪者148,125人(4日間)の大規模展示会)のロボットサービスイニシアティブのブースにて,4日間来訪者の動きをLiDAR(Light Detection And Ranging)で補足蓄積し,統計処理を行い,注目度を算出した.この手法は,類似の検証は人形浄瑠璃を模したロボットでも実施しており,この手法を用いるとロボットの着物の色の違いで訪問客の反応が違うなど細かな違いまで検出できる.
結果,ブース前の通行客の4割〜6割がこのロボットに注目しているなど,集客に効果があることがわかった.また,この分析手法により所作や効果の違いも検出できた.詳細結果は,2024/3ロボット学会研究会で発表し,その後,論文化する.
一方,再構築や実システムでの活用のために必要な,伝統的な舞台芸術に共通で使える振り・所作の生成ソフトウエアプラットフォームの検討もすすめた [1,6].
• 今後の構想
ロボット分野向け所作の活用には、舞などの一連の動きのなかで個々の所作がどのような理由で設定されているのかを究明することが有効である。本成果で得られた個々の所作の注目度や多様性の要素の組み合わせを用いた解明を試み、必要に応じ新たな視点も加えていく.
【研究目的】
本研究の目的は,サービスロボットの身体性を活かし,人と相互にメッセージをやりとりする最適な動作やしぐさの実現を目指し,日本の伝統的な舞台芸術の蓄積や知見をロボットで活用する手法を明らかにし,活用できる形態に再構築することである.これにはロボット設計者の視点でしぐさ選択の根拠となる意味情報や良質な表現が必要となる.これは演出家の視点にも近い.
本申請では,その一環として,申請者の科研費プロジェクト「民俗芸能のわざの蓄積・分析を活用したサービスロボットの身体性の実現」にて提案している人形浄瑠璃を中心としたわざの分析手法「連想モデルによる振りの体系化」[1]を深化させつつ,能楽へ分析の範囲を広げることで,能楽が他分野へどのように影響を与えたか,どのように影響を受けたかを振りのレベルで明らかにし,わざ・振りの起源を遡る.結果,この過程で得られる能楽による振りの意味情報や良質な振りのロボット分野向けの再構築を試みる.