テーマ設定型共同研究 活動報告
② 江戸時代の能楽についての総合的研究
研究代表者:宮本圭造
【研究概要】
江戸時代の能楽の享受のあり方を立体的・総合的に捉えるため、文献資料のみならず、全国各地に残る諸大名家の能道具(面・装束等)の調査・研究をおこないます。
これらの能道具を所蔵する国立能楽堂、各地の博物館とも連携し、悉皆調査に基づくデータベースを作成します。
◆2018年度 研究活動
本研究では、江戸時代の演能空間の復元的研究とともに、江戸時代の諸藩の能楽に関する研究資料の整備に努めてきましたが、その成果として本年度は以下のような活動を行いました。
・ 能楽研究所が所蔵する伊達家伝来の能楽資料全171点の撮影と全ての資料解題( 青柳有利子・深澤希望の執筆) の作成を完了し、本年度末に「伊達家旧蔵能楽資料デジタルアーカイブ」として公開しました。その中には、本年古書店の目録に掲載され、その後、能楽研究所の所蔵となった新出の伊達家旧蔵能型付1 点も含まれます。従来アクセスが困難であったこれらの資料の全面的公開によって、江戸時代の能楽史研究が今後大いに発展することが期待されます。
・ 高知城歴史博物館等が所蔵する土佐山内家関係の能面・能楽関係資料の悉皆調査を行い、その成果の一端を国立能楽堂開場35 周年記念特別展「土佐山内家の能楽」として公開しました。特別展図録に宮本圭造が「土佐山内家の能楽」「土佐山内家の能狂言面と山内容堂」を執筆、9 月26 日の講座においても研究成果を報告しました。上記の研究成果につきNHK 高知局の取材を受け、特別番組として近く放送が予定されています。
・ 千代田区文化事業助成の助成による神田明神薪能実行委員会主催「江戸勧進能 能楽体験のワークショップ 能フェス」に全面的に協力し、江戸時代の演能空間の復元的研究による研究成果の一部を提供しました。
・ 全国の諸大名43 家に仕えていた能役者の由緒書を集成した資料集『近世諸藩能役者由緒書集成(上)』( 能楽資料叢書5)を3 月に刊行しました。
◆2018年度成果
「伊達家旧蔵能楽資料デジタルアーカイブ」
能楽資料叢書5『近世諸藩能役者由緒書集成(上)』
論文「土佐山内家の能楽」宮本圭造、国立能楽堂特別展図録『土佐山内家の能楽』2018年8月
論文「土佐山内家の能狂言面と山内容堂」宮本圭造、国立能楽堂特別展図録『土佐山内家の能楽』2018年8月
論文「面打大光坊と「井関明息斎」」アダム・ゾーリンジャー、『能楽研究』43
論文「面打井関備中守追考」宮本圭造、『能楽研究』43
論文「面打角坊考」宮本圭造、『能楽研究』43
◆2017年度 研究活動
能楽研究所をはじめとする各研究機関が所蔵する膨大な能楽資料のデジタル化、未翻刻の基礎的文献の刊行は、江戸時代の能楽についての研究を進めて行く上で、とりわけ重要な仕事です。2017年度は、その一環として、伊達家旧蔵の能楽資料のデジタルアーカイブ化に向けた研究、近世諸藩の能役者由緒書の翻刻を進めました。
・伊達家伝来の能楽資料は現在諸所に分散されて所蔵されていますが、所蔵点数が最も多いのが能楽研究所であり、その点数は法政大学鴻山文庫蔵分を含め、全165点に上ります。このうち2017年度までにほとんどのデジタル撮影を完了し、同時に青柳有利子・深津希望が中心となって資料解題の作成も進めました。次年度中には、残りの6点(冊数の多い謡本が中心)の撮影と全ての資料解題の作成を終え、「伊達家旧蔵能楽資料デジタルアーカイブ」として公開の見込みです。
・諸藩に抱えられた能役者の由緒書は、江戸時代の能の地方的展開、家元を頂点とする能楽の社会構造の在り方、能役者の社会的身分などについて考察する上で基礎的な重要文献ですが、従来は未翻刻・未紹介のものが多くありました。そこで、全国の諸大名約三十家に仕えていた能役者の由緒書を集成し、能楽資料叢書5『近世諸藩能役者由緒書集成』として刊行するべく編集中です。
◆2017年度成果
・伊達家伝来能楽資料のうち法政大学鴻山文庫所蔵の165点のうち、159点のデジタル撮影を完了。
・論文「金春家本面の復元」 宮本圭造 『能と狂言』15、能楽学会
◆2016年度 研究活動
江戸時代の能楽を総合的に把握するため、江戸幕府・諸藩・町方での演能の実態解明と、能面・装束・舞台などのハード面の分析を行います。2016年度は以下のような研究を行いました。
・前年度に引き続き、『諸藩能役者由緒書集成』の刊行に向けて、諸藩お抱え役者由緒書の採集を行いました。本年度は豊後岡藩・金沢藩・長府藩などの由緒書の撮影と翻刻を進めました。
・三年間にわたって実施している金春宗家文書の悉皆調査を今年度も継続して行いました。また、金春宗家伝来の能面に関する研究発表を6月の能楽学会大会(於早稲田大学)において行いました。
・金沢能楽美術館で行われる企画展「石川県の神社に伝わる古面と能装束」に協力し、石川県に伝来する能面の調査を行うとともに、講座・図録解説を担当しました。
・法政大学建築学の高村雅彦教授と能楽研究所との協同により進めている勧進能空間のCG復元プロジェクトの成果を、能楽セミナー「能をめぐる学際研究」において発表しました。
◆2016年度 成果
・能楽研究叢書 『金春家文書の世界』刊行。2014年度開催のシンポジウム「金春家文書の世界―文書が語る金春家の歩み―」に基づく論文集。
・論文「金春家文書伝来の経緯」宮本圭造 能楽研究叢書『金春家文書の世界』
・論文「金春禅竹の信仰圏と翁論―『明宿集』を中心に」高橋悠介 能楽研究叢書『金春家文書の世界』
・論文「金春禅鳳自筆謡本の周辺」石井倫子 能楽研究叢書『金春家文書の世界』
・論文「被相伝者から見る金春安照型付」深澤希望 能楽研究叢書『金春家文書の世界』
・図録解説 『新・古能面展Ⅶ』 宮本圭造 金沢能楽美術館
◆2015年度 研究活動
2015年度は以下のような研究を行いました。
*『 諸藩能役者由緒書集成』の刊行に向けて、諸藩お抱え役者由緒書の採集を行いました。本年度中の刊行を予定していましたが、採録文書が当初予定していたよりも増加したため、次年度に先送りすることとなりました。
* 諸藩の能面・能装束に焦点を絞ったシンポジウムを3 月に開催し、林原美術館・石川県立美術館・日本芸術文化振興会・金沢能楽美術館の研究者を迎え、備前岡山藩・加賀金沢藩・肥後熊本藩の能道具の変遷に関する報告を行いました。
* 上記シンポジウムの関連企画として、国立能楽堂展示室で行われる企画展示「近世大名家の能楽」に協力し、200 点を越える資料の貸し出しを行うとともに、監修・解説を担当しました。また、静岡県のグランシップで1 月に行われた、徳川家康没後400 年を記念する「グランシップ静岡能」にも協力し、江戸幕府の能に関する資料展示・解説を行いました。
* 建築学の高村雅彦教授との協同により進めている勧進能空間のCG再現プロジェクトの成果を、宮本の企画になる日本演劇学会秋の研究集会「古典劇の現代上演」のシンポジウム「伝統演劇・古典演劇の復元的上演はどこまで可能か」において発表しました。
◆2015年度 成果
・論文「面打井関考」宮本圭造 『能楽研究』40号
・論文「大坂城本丸の能舞台をイエズス会日本報告の原本から読み解く」パトリック・シュウェマー 『能と狂言』13 能楽学会
・論文「絵画から見る楽劇史―研究資料としての能絵―」小林健二『楽劇学』23
・ 能楽資料叢書『御囃子日記』校訂:小林准士
◆2014年度研究報告
・江戸時代の能舞台とその空間をCG によって再現するプロジェクトを、建築学の研究者とともに進め、舞台図面等を収集、寸法体系の確定まで終了しました(5月~3月)。
・江戸時代の能楽を考える上で重要な問題となる「素人」役者の存在を多角的に検証するため、4名(能楽研究所・ハンブルク大学・京都市立芸術大学)でパネルセッションを組み、EAJS 大会において、Whose Tradition is Noh?:The role of amateur performersと題する発表をおこないました。(8月)
◆2014年度 成果
・論文「観世元章とその時代」宮本圭造『観世元章の世界』
・論文「寛延勧進能小考」青柳有利子『観世元章の世界』
・論文「面打ホウライ考」宮本圭造『能楽研究』39
◆2013年度研究報告
本プロジェクトは、豊富な資料が残っていながら、これまで十分な解明がなされてこなかった江戸時代の能楽について、歴史・美術史・工芸史・染織・建築等の諸分野の研究者との共同研究を進め、江戸時代の能楽の全容を明らかにすることを目的とします。本年度は、その基礎調査として、三春藩・松代藩・岩国藩・豊後岡藩などの能楽関連資料の調査を行い、秋田城介に宛てて最晩年の幸月軒が扶持を依頼する書状など、いくつもの重要文書の採集を行うことが出来ました。
また、江戸時代の能楽を彩った能道具の調査として、喜多流の能楽師・粟谷家が所蔵する鳥取池田家旧蔵面十面の調査を行い、その成果を『粟谷家所蔵能面選』の中で報告しました。諸大名の能道具については、合わせて道具帳の採集も行い、松代藩・熊本藩・臼杵藩などの道具帳の存在を確認しました。諸藩の道具帳の調査は2014年度も引き続き実施し、現存の能面・装束との照合調査を行う予定です。
◆2013年度 成果
・論文「屏風絵に描かれた能―香川県立ミュージアム「源平合戦図屏風」をめぐって―」小林健二 『能と狂言』11
・論文「能絵鑑に見る能装束の様式―諸本との比較から導き出されるデザインの変遷―」小山弓弦葉 『能と狂言』11